
『5→9~私に恋したお坊さん~』DVD vol.5(株式会社ポニーキャニオン)
そもそも俳優志望だったわけでもない。キャビンアテンダントに憧れ、何となく華やかさが共通する芸能の道を選んだ。同級生は就職して忙しそう。でも自分は……。それで彼女は持ち前のかきあげヘアーを武器に自由なスタイルのトークでテレビの世界に活路を見出す。
転機は2015年。『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2015』(フジテレビ)に出演する。この出演をきっかけに俳優として本格デビュー。28歳。意外に遅いスタートだった。
続けて、石原さとみ主演の『5→9~私に恋したお坊さん~』(フジテレビ)に出演し、これが初の月9出演作品となった。苦労のタレントが、俳優として花開こうとした瞬間であり、ここから怒涛の11クール連続でドラマ出演を果たす。
とは言え、その足がかりになった同作出演では、石原さとみの周囲を賑わせるひとりとして、噂話好きキャラの役割に徹している。中村の魅力が時代の要請に対して大胆に花開くのは、初主演作『ラブリラン』(日本テレビ、2018年)まで待たなければならない。

『ラブリラン』DVD-BOX(TCエンタテインメント)
中村アンの初主演作ともなると、それこそかきあげヘアーなどの色っぽさ成分を抽出したエクストラバージンなキャラクターでもよかったはず。でもあえてそうした特性を封印して、非恋愛的な主人公・南さやかを演じている。
だいたい世の中、恋愛ばかりがメインストリームの物語が前提なのがおかしいわけで……。第1話冒頭、クリスマスにひとり、おでんを持って帰宅するさやかは色っぽさからは程遠い雰囲気。29歳になるまで一度も恋愛をしたことがない役柄は、俳優としての中村の本気度を問うかのようだった。
29歳というナインボーダーの焦りと葛藤が中村を通じてふるえる。そうだ、それでいうと、3世代のナインボーダーを描く『9ボーダー』(TBS、2024年)が川口春奈主演で放送されたばかりだが、同じ金子ありさ脚本作品『着飾る恋には理由があって』(TBS、2021年)で、中村が演じた孤高の画家役は、かなり挑戦的だった。
何がって、役作りであの髪が短くなったこと。見事なイメチェンを試みた。紛れもない、リバース・中村アン。川口扮する主人公とシェアハウスで暮らすが、最初はほとんど姿を見せない。ぶっきらぼうに部屋にこもりっきり。夜中は、創作に没頭する。ぼくらは、こういう中村アンを待っていたのではないか。