――この作品を執筆した経緯を教えてください。
五十嵐:いつか「自分の体験を漫画に描きたい」と考えていたのですが、あるインフルエンサーの方がYouTubeで発信した、生活保護受給者やホームレスの方に対する差別発言が執筆を早めるきっかけになりました。その動画には、批判が集まり削除されましたが、彼と同じ意見を持つ人も少なくないと思います。
でも、よく問題点を指摘される生活保護の「不正受給」は、全体の1%以下だったり、日本の生活保護利用率は諸外国に比べて低い、保護されるべき人に制度が行き届いていないという実態はあまり知られていません。そのため、世間のマイナスイメージが先行して生活保護を申請しづらい世の中になっています。
生活保護利用者への偏見が巡り巡って、貧しさを理由にした自死や孤立死につながっていると言われているんです。

『東京のど真ん中で、生活保護JKだった話』1話より
――そうした偏った意見が根強くあるなかでの作品発表に“恐怖心”はありませんでしたか?
五十嵐:おっしゃる通り、世間の厳しい視線は以前から感じていたので怖さはありました。それでも、今回の騒動を見て「生活保護に救われるケースもある」と早く伝えなければ、と強く思い、筆を執りました。
また、私自身の立ち位置も漫画にしやすいと考えたんです。実際に生活保護を申請したのは、脳の疾患で後遺症を持つ父であり、私はその家庭で育った子ども。やはり、生活保護を申請した本人は、世間に対して申し訳なさや後ろめたさを感じているため、自ら発信しにくいと思うので……。当事者でありながら、当事者ではない私の視点で生活保護制度について描きたい、という気持ちもありましたね。

『東京のど真ん中で、生活保護JKだった話』4話より
発売後の反響は「生活保護家庭のイメージが変わった」「逆境でも前向きに頑張る姿に励まされた」など、好意的な感想が大半だったので、本当にありがたかったです。なかには「自分も貧困家庭で育ったので共感しました」という声もあり、“つらかったのは私だけじゃないんだ”と感じられて嬉しかったのを覚えています。