
さかのぼること、第7週第31回。一度はいいなずけの仲になりかけた人、明律大学の学友・花岡悟(岩田剛典)とレストランで食事をしたあとだった。赴任先まで一緒について来てほしかったが、ジレンマの中で口ごもってしまう花岡の去り際。
いつも紳士然としていた花岡が帽子を被る。ただ黙って右手をあげて、寅子に別れを告げる。花岡にしろ、航一にしろ、帽子を手に持ち、それ被った男性たちは、必ず寅子に静かに背を向ける。
ただ、航一の場合は、花岡と違う。静かだけれど、どこか温かなものを徐々ににじませ始めている。実際、第79回以降の航一は、自然と笑顔になる率がグンと上がっている。
第80回、航一は寅子を元気づけようと、行きつけの喫茶店に行かないかと提案する。初めての誘いだ。寅子は、「あら」と大はしゃぎで喜ぶ。毎週水曜日だけ、新潟地方裁判所刑事部の事件を担当することになった寅子は、初出勤のお昼に約束の喫茶店に連れて行ってもらう。
そこで再会したのが、男爵家の令嬢で学友だった桜川涼子(桜井ユキ)。入口で、寅子と涼子に挟まれて、航一は薄っすら微笑みを浮かべている。ちょっとした誘いに過ぎなかったが、妙な引力で旧友との再会を引き寄せた。
店内での航一は基本的に黙っている。カウンター席に寅子と並んで座り、看板メニューのハヤシライスが運ばれて来て嬉しそうな顔をする。カメラは、画面の上手で最高に輝く岡田将生の微笑みを決して逃さない。
長官室や支部長室など、寅子と航一はいつも対面して向かい合ってばかりいた。だからちょっとお互いに緊張していたのか。旧友が営む喫茶店のカウンター席では、並んで座ることで、この緊張がかなり柔らかく緩和されている。