朝ドラ『虎に翼』のぎこちないキスで思い出した「GHQ指導による日本映画初のキスシーン」とは
つるつるすべる廊下というシチュエーション
段取りというより、お膳立てといった方が正確かな。寅子は戦病死した夫・佐田優三(仲野太賀)以外の相手を愛してはいけないと思っている。この切実な気持ちに対して航一も切実にアプローチするしかない。
判事の執務室。「すべてに蓋をして生きてきました」と語る航一は、「でもあなたといると、つい蓋が外れてしまう」と寅子に伝える。寅子のほうだって、航一に「胸が高鳴る」し、会いたいと思っている。すでに二人は強く結び付いているわけだが、もっと踏み込むためのきっかけはどう作ったらいいのか?
キスシーンとは、いつでも偶発的な出来事として描かれる。変に予定調和であってはいけない。ならば、執務室からの帰り、咄嗟にどちらかを思いきり廊下で転ばせたらいい。それくらいの突拍子のなさをきっかにしてこそ、二人の物理的距離はぐっと近づくはず。
このつるつるすべる廊下というシチュエーションを設定することで、お膳立ては完璧である。航一はこの廊下をどてんとかなり大胆にスッ転ぶ。寅子が手を貸し、そのままお互いの手を握り合う。十分近付いた。射程距離内。さぁ、航一、行けぇ(!)。
少し気恥ずかしそうにそれぞれ下を見ながらも、一応向き合う姿勢になっている。一度手を離してから抱き合う。ツーショットになると身長差が強調される。ここはひとまず航一がリード。膝をきゅっきゅっと曲げて高さを調節する。寅子の唇に狙いを定めようとするが、彼女は笑いをこらえている。唇と唇が重なる。あぁ、これでやっと距離がゼロ。
笑ってしまうくらいぎこちない動きと運びだが、寅子がぶぶっと吹き出し、航一も微笑む。唐突なつるつる廊下作戦とはいえ、何をふざけてるんだ。
でも寅子と航一が折り合いをつけた「永遠を誓わない、だらしがない愛」の視覚的な表明としては、ほほえましく及第点といったところだろうか。
GHQの指導による日本映画初のキスシーン
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