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松山ケンイチ『虎に翼』“一気見レビュー”が大反響。誤字脱字があっても説得力が異様に高いワケ

いい意味で異端だった松山ケンイチ

俳優としての松山ケンイチは、『虎に翼』のなかで、いい意味でなかなか異端であったように感じる。『虎に翼』は法律という硬い題材をライトなタッチで描いていた。さらに“朝ドラあるある”のひとつで登場人物たちは50代になっても老けメイクは控えめ。ところが桂場だけはどんどん老けていき、松山はたったひとりでリアリティーを出そうとしていた印象がある。 演技とは様式だけでも心だけでも足りず、しっかり作った形に心が見事にハマったときが最高の瞬間である。あるいは心に合わせて身体や動きが変化していくのでもいい。松山ケンイチの芝居はいつもそこに到達しているように感じる。 法律を愛し、ついには最高裁長官にのぼり詰めるが、司法を尊ぶあまり、ブルーパージ(編集部注:リベラルな自主的組織に加入していた裁判官らに対し、左遷など冷遇した一件。ドラマでは「勉強会」を行った若者たちを異動させた)を行うなど、やりすぎなこともある桂場は、寅子とは次第に法律家としての生き方の道がズレていく(最初から意気投合はしていない。桂場はややひねくれ者設定でもある)ので、寅子たちとは違うアプローチを行ったことで良き差異となった。 最高裁長官の芝居を、司法関連の取材を担当していたNHK解説委員の清永聡は「これまで最高裁長官を何人も見てきました。松山ケンイチさんの最高裁長官ぶりは、その中の一類型にとても近いと思いました。本当にああいう感じの人がいるんですよ(笑)」と高く評価していた(ヤフーニュースエキスパート『「虎に翼」最終週にてんこ盛り過ぎる問題をNHK解説委員に丁寧に解説してもらった』より)

松山ケンイチの一気見に説得力がある理由

甘いものが好きで、甘いものを食べようとするたび、寅子に邪魔されるという漫画っぽい設定もありながら、それが漫画に終わらず、こういう人いるよねという感じに見えた。このようにしっかりと演じ、ドラマを面白くしてきた松山ケンイチだから、一気見にも説得力がある。 筆者は、朝ドラを休まず毎日レビューし続けてもうすぐ10年になるが、松山ケンイチの一気見には刺激を受けた。私もがんばらなくちゃと心底思った。ありがとう松山ケンイチ。 それにしても、なんでこんな苦行をやっているのだろう。と推理してみると、一気見をはじめてからの松山ケンイチのXのプロフィールは「イエス(ジョニデ似)」となっている。これは、12月公開の松山の主演映画(染谷将太とW 主演)の役名である。
さらに、10月4日のポストでは堂々と宣伝をしている。 「こうして、花岡こと岩田剛典は天国へ行きミカエルとして、また下界に降臨することになる。とんでもない飛び道具として……! 聖お兄さんTHE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団 12.20[FRI]公開。 ※宣伝です。」 この映画には岩田剛典のみならず、優三さん役の仲野太賀も出ている。最終回の感想では、再び、仲野太賀が映画に出ていることがポストされた。朝ドラ全130回一気見の苦行は主演映画の宣伝のための涙ぐましい努力かもしれない。たとえそうでも、こんなに楽しませてくれたのだから映画を見に行くよという気持ちになっている。 <文/木俣冬>
木俣冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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