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“中年おじさんが美味しいもの食べるだけ”のドラマがなぜ面白いのか。61歳俳優、最大のヒット作のワケ

焼き鳥が初出かと思いきや

『それぞれの孤独のグルメ』© テレビ東京 ところで、『孤独のグルメ』で初めて画面に写った食べ物を記憶している視聴者はどのくらいいるだろう? Season1の第1話タイトルは「江東区門前仲町のやきとりと焼きめし」とある。ということは、焼き鳥が初出かと思いきや、これが違うのだ。  あくまでドラマ形式である本作では、まず得意先との商談場面から始まるのが基本。商談を済ませて、さぁて腹ごしらえだと思い立ってその街のちょっとした穴場的なご飯屋を探すという筋。  第1話の記念すべき舞台は門前仲町。五郎は学生以来だとモノローグで説明する。商談場所である喫茶店に入る直前、五郎は路地で落としたみかんを拾い集めるおばあさんと遭遇する。すかさず拾う作業を手伝って、お礼にひとつもらう。このみかんが初めて接した食べ物だった。

食前食後のドラマを楽しむ醍醐味

『それぞれの孤独のグルメ』© テレビ東京 そのあと、ちょっとややこしい顧客との商談(ここではコーヒーを飲む)を終えて、お待ちかねの食事場面となる。本作の最大の見どころがこの食事場面にあることはもちろんだけれど、醍醐味は実はその直前のちょっとしたドラマにあったりする。  その意味で筆者が特に気に入っているのが、Season3の第3話。舞台は静岡県賀茂郡。冒頭、伊豆急行線にゆられる五郎が車窓に広がる海を前にのびのびする。商談場所の最寄りバス停に到着した途端、3連符のリズムを刻む4拍子のピアノとギターの掛け合い爽やかな夏のバラードがバックミュージックとしてかかり、これが格別に気持ちがいい。  あるいは前後して第2話。今度は横浜で町中華に入り、裏メニューであるニンニクましましの麺料理パタンを食べる。がっつり系油麺を平らげた五郎の満腹の表情を見て、あぁこれはタバコ吸いたくなるよなぁと思ったら、「あのタバコ吸ってもいいですか?」と店員に聞く。煙をくゆらせ、店内での一服を楽しむ。食事場面あるいは食前場面より、むしろ食後の余韻が引き立つ神回だった。  という具合に食前食後のドラマを楽しむ醍醐味が、今回の特別編『それぞれの孤独のグルメ』ではリニューアル的にドラマ要素が拡張されている。  しかも第1話で立ち寄る店は町中華。目配せがきいてる。店主役が爆笑問題の太田光。食事場面の前、この店主と五郎がたまたま川で石切に興じるエピソードがある。何だかほっこりする食前場面。『孤独のグルメ』を見る醍醐味が凝縮されている。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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