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藤原竜也、四十代で「異常」なピュアさ!広瀬アリスのほうがお姉さんのように見えるシーンも/『ゼンケツ』最終回

20年経過しても「異常」なほどピュアな雰囲気を発揮

『ロミオとジュリエット』ホリプロ

『ロミオとジュリエット』ホリプロ

若い頃、等身大の繊細な心の震えを武器に人気を獲得する俳優は少なくない。藤原も十代のとき、デビュー作である舞台「身毒丸」で等身大の少年らしさを存分に発揮していたし、二十代では「ロミオとジュリエット」(04年)で恋する少年をハツラツと演じていた。 とりわけ印象的なのは「ハムレット」(03年)で、本当は愛しているにもかかわらず邪険(じゃけん)に扱った恋人オフィーリアが亡くなり、その亡骸をそっと抱きしめ嘆く藤原の姿は名場面である。 本当ならオフィーリアの兄にかけるセリフ「おれはオフィーリアを愛していた」を亡骸に向けて語りかけたのは藤原の判断だったという。思わず目の前の恋人に言葉をかけてしまうというのがとてもいいなと筆者は思ったものだった。 このとき、「ハムレット」も「ロミジュリ」も、相手役は鈴木杏で、あれから20年経過したいま、「ゼンケツ」での相手役は、鈴木と同じ事務所の後輩の広瀬アリスである。鈴木よりもさらに年下の相手役とピュアな感情の交換を演じても、まったく違和感がない。むしろ、広瀬のほうがお姉さんのようにも見えるのだ。 最終回では、二十年前に見た『ハムレット』と同じような感動を覚えた。四十代になっても繊細な叙情的な透明感――一言でいえばピュアな雰囲気を発揮できるのはドラマ的にいえば「異常」(いい意味で)なほどである。

芝居になるとがらりと変わる。まったく化ける俳優

テレビドラマで藤原の繊細キャラと言ったら、ミステリードラマ『リバース』(TBS系)がある。そこではコーヒーをいれるのが好きな実直な人物で、そこでもピュアな面を発揮していたのは2017年のことで、あれから7年も経過しているのだ。 興玉がやたらと芹田にコーヒーのデリバリーを頼んでいたのは『リバース』のオマージュだったのかも?というのはさておき、藤原はこれまでピュアキャラ売りではなかった。 『ゼンケツ』の放送開始前に行われた試写での会見では、共演者のひとりユースケ・サンタマリアに「ちょっと彼酔っぱらってます、テキーラを飲んでました」と冗談を言われるほどお酒の強いイメージにもかかわらず、芝居になるとがらりと変わる。まったく化ける俳優なのである。
正直、言えば、顔のコンディションがこんなに安定しない俳優も珍しい。『ゼンケツ』を見ていてそう思ったのだが、各場面での肌状態が全然違って見えても、ここぞというときの芝居の勢いが勝ってしまう。第9回では、小日向文世演じるゼンケツの局長・宇喜之民生こと宇迦之御魂神との対決シーンがあり、そこでの痛みや苦しみの表現の臨場感は図抜(ずぬ)けていた。 『ゼンケツ』の荒唐無稽で奇想天外な話しはそれはそれでとても面白いが、好き嫌いは大きく分かれると思う。非現実を扱ったドラマに興味のない視聴者もいるだろう。そんなとき、藤原竜也の醸し出す人間の感情の普遍性が、荒唐無稽さを覆い隠してしまう。 最終回の興玉には、神とか人間とか関係なく、もらい泣きしてしまいそうだった。 <文/木俣冬>
木俣冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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