――出演映画『敵』が公開中です。非常に興味深く面白い作品でした。前半の穏やかさから、後半の怒涛の展開に驚き、“敵”について観終わってからも考えさせられます。
瀧内:後半、ダイナミックになってますからね。「どうなっちゃうんだろう」と思いますよね。
でもどこからがそうなっていったのかと問われれば、最初からそうだったのかもしれないですし、解釈によっては多角的な視点が生まれるとても面白い作品です。
――オファーがあったとき、脚本を読んだときの感想から教えてください。
瀧内:筒井康隆先生の原作から読んだわけではなく、大八監督が執筆なさった脚本がこの作品との最初の出会いでしたので、タイトルを聞いた時にまずは「敵ってなんだろう」と思いました。
でも脚本を読ませていただいて、「敵がなんだろう、だとか、そういうことじゃないな」と感じました。「これが敵でした」となにか一つを指せる話ではないなと。
――たしかにその通りですね。
瀧内:はじめは渡辺儀助先生(長塚京三)の老後の日常が丁寧に描かれていきます。つつましい生活を送ることで、季節がめぐっていくさまも日本らしいですし、そうした日々を描いていくのかなと思わせるのですが、後半、こんな展開が待っているのかと、正直おののきました(笑)
それを吉田大八監督(『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』)が演出するというのが、いち映画ファンとしてもとにかく楽しみでした。
――瀧内さんは渡辺先生のかつての教え子・靖子を演じましたが、彼女はあくまで先生の目に映った靖子像です。どう作っていかれたのでしょうか。
瀧内:実際に儀助さんの人生の中で教え子として実在していたひとりではあるでしょうけど、靖子は儀助さん世代の理想の女性像だと思います。
劇中の登場シーンで、どういう塩梅でそうした理想像を出していくか、大八監督とすり合わせながら作らせていただきました。彼女は基本的にきれいな日本語を話すので、その部分も頼りにしながら、品の良さやファムファタール的な女性像を形にしていきました。
それから、打ち合わせの段階から、「イメージとしては原節子さん」とのお話がありました。私はもともと小津安二郎監督の作品が好きなので、原節子さんは何度も拝見してきた女優さんです。
今回も改めて観返して、いわゆる正統派、品の良さが出る在り方を研究しながら、私から監督に提示できるところは提示しながらやっていきました。
――モノクロの作品という点も、逆にいろんなものが滲み出て来て、想像力を刺激してくれます。
瀧内:カラーだと視覚だけでも得られることが多いので、情報量としてはカラーの方が圧倒的ですよね。モノクロの良さは、自分の中で想像させていく余白がありますね。