――これまでの診察経験からも、風俗での労働や売春をして貢ぐ行為は本人たちが自らの意思でやっているというケースが多いということですね……。その背景には、疾患がある?
大石先生:発達障害や性嗜好障害・強迫的性行動症を持っている人には、理解・判断・論理などの知的機能“認知”のゆがみ、簡単にいうと“ものの捉え方”のゆがみが大きいために孤独や寂しさを抱えている人が多いです。ホストに依存している場合だと、「担当(ホスト)だけが私のすべてを受け入れてくれる・理解してくれる・幸せな時間を過ごさせてくれる」という感じ。ホストがお金を使ってもらうためにそういう環境を提供していることに気づきにくい傾向があります。
そのため普通に暮らしているつもりでも、「どこか馴染めない」「自分だけが浮いている」など本人たちが漠然と感じていることもありますし、認知のゆがみからホストや恋愛対象者とのやり取りをキッカケにのめり込んでしまうこともあるのです。
――ホストや恋愛対象者と知り合うキッカケとしては、どういったものが多いですか?
大石先生:ホストの場合、大学入学後に「ちょっとホスト行ってみない?」と友だちに声をかけられて行ってみたというケース。ちょっとした好奇心や興味本位からハマってしまったということも多いです。
――どのようにのめり込んでいくのか、具体的に教えてください。
大石先生:普段は周囲に馴染めなかったり、否定や疎外されていると感じていたりする自分をすべて受け入れ、「かわいい」「ステキ」などと褒めてくれる。すると嬉しくなるし、自分の居場所ができたような気持ちになります。恋愛や人とのコミュニケーションに長けている人なら、簡単にこういった状況を創り出すことができる。赤子の手をひねるようなものです。
――誰かに褒められたり自分の居場所ができたりすることは、疾患を抱えていない人でも嬉しいことのように思います。疾患があるかないかでは、どのように変わるのでしょう?
大石先生:疾患を抱えている人は興味や活動が偏る傾向があり、視野狭窄に陥りやすい。先ほども少し触れましたが、疾患を抱えていない人は、ホストから何万という金額を提示された時点で「毎回これだけかかるなら、生活できなくなる」などと考え、冷静になります。でも疾患を抱えている人は、目の前にある楽しいひとときがすべてになってしまうのです。
――そのひとときの楽しさのために、借金を重ねたり日常生活を犠牲にしたりする?
大石先生:そうそう。そして、親の財布からお金を盗んだり、いままで勤めていた仕事を辞めて売春や割のいい風俗店で働いたりしてまで、ホストや恋愛対象者にお金を渡すようになってしまう。
――聞いているとすごく怖いですし、いままでは普通に暮らしていて、自身が疾患を抱えているとは想像していない人も多そうです。
大石先生:実際、風俗店で働いたり売春をしたりしても借金が払い切れなくなり、当院に相談に来てはじめて疾患が発覚したという人も少なくありません。