悪女でも憎めないのはなぜ? 松嶋菜々子にしか出せない存在感
そんなイヤ~な母親役なのに、松嶋が放つ圧倒的な美しさからは目が離せません。ここで思い出されるのが、彼女のターニングポイントとなった2000年のドラマ『やまとなでしこ』。「貧乏なんて大嫌い」と高らかに宣言し、玉の輿に乗ることに躍起になる主人公・桜子(松嶋)。婚約者がいても合コン三昧のまさに“悪女”系ヒロインでしたが、
見た目の美しさだけではないチャーミングさに、多くの人が心を奪われました。今回の登美子役にも通じるものがあります。

松嶋の朝ドラ出演は本作が3作品目。『ひまわり』(1996年)では、バブル崩壊後の平成をたくましく生きる明るいヒロインを、『なつぞら』(2019年)では、ヒロイン(広瀬すず)の優しい育ての母を演じました。そんな彼女だからこそ、自分本位に嵩や周囲を振り回す母親役は意外でしたが、ハマっています。清純派ヒロインからキャリアウーマン、そして決して笑わない家政婦と、
幅広く主役級の役どころを演じてきた松嶋にしか出せない存在感があるのです。
彼女が画面に映るだけで、観る者を釘付けにしてしまう。秀逸な心情描写と、松嶋にしか纏えないオーラによって、凄まじいキャラクターを創り上げています。
母のためにと懸命に難関校を目指した嵩が不合格になり、第20話ではそんな嵩を食卓で囲む柳井家。登美子の険しい面持ちにはひと際惹きつけられました。そこから、
まさかのヒロイン・のぶ(今田美桜)に八つ当たりをし、嵩を置いて柳井家を出ていくという毒親っぷりを発揮!
去り際、期待外れと言わんばかりの「
もういいわ。好きにしなさい」発言には胸が痛みましたが、その意味は「もう私に縛られず好きに生きて」とも取れます。彼女の表情からは、
嵩のことを想っての行動であった可能性を感じなくもない。複雑な母親の心理を絶妙に表現しており、やはり彼女のことを心底憎む気にはなれません。