また、のぶが支持されない理由として「同族嫌悪」も挙げられる。のぶは大半の人々と同じく、世間の空気に流されて軍国主義に染まった。当時ではごく当たり前のことなのだが、それが私たち現代人の感覚では、ドストレートに言えば主体性がないように映ってしまう。

『連続テレビ小説 あんぱん Part1 (1) (NHKドラマ・ガイド) 』(NHK出版)
空気に流されている人間は疎ましく思われがちだが、実際のところは、空気に流されやすい人間のほうが多数派だ。
多くの視聴者が自分自身の中に確実に持っていて、そして目を背けたくなる「流されやすい」という性格を、のぶも持ち合わせている。だからこそ、軍国主義に染まっていたのぶのことを、好きになれなかった人が多いのではないか。
とはいえ、常に戦争に異を唱え、自分軸を持っているヒロインは勇ましくカッコいいかもしれないが、実際のところ真似はできない。つまり、空気に流されながら周囲からの承認を得ようと努力するのぶは、最も視聴者に近い存在と言える。
のぶは長い間、戦時中の異常な空気感に飲み込まれ、戦争が愚かな行いであると疑う発想がなかった。より正確に言えば、蘭子や嵩、草吉(阿部サダヲ)の発言から戦争への違和感を抱く瞬間もあったが、
疑うことから必死に目を背けていた。
この辺りものぶの評判を落とした理由ではあるが、私たちも同じ時代を経験した場合、お国の判断を疑えるか。仮に疑えたとしても「戦争反対」と声を上げられるか。筆者は間違いなく無理だ。「お国のため」と言えば周囲から承認を得られる。そのまやかしの安心感を求めていただろう。
戦時中ののぶの言動には眉をひそめたくなるが、同じ時代にいたら自分たちもきっとそうなっていたのだ。のぶは自身と置き換えやすく、いざのぶ視点に立ってみると、のぶを責める気持ちは消え去る。のぶに自分を重ねる人が増えれば、のぶに対する評価は大きく変わっていきそうだ。