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朝ドラ『あんぱん』44歳俳優の“ナチュラルな渋み”と存在感。「毎回の登場が新鮮」なワケ

愛を持って演じている再登場

 孤児が逃げ込んだ路地中央で待ち構えていたかのように、その男性が孤児を捕まえる。男性は終始後ろ姿を見せている。追いついたのぶに「気をつけて」と言って優しげにカメラを返す。  優しげでジェントリーな声色の男性は誰だろう? あれ、新しいキャラクターが登場したかなと一瞬思ったら、八木だった。稼いだお金で孤児たちの面倒を見ている八木は、カメラを盗もうとした少年に対しても愛のある眼差しできちんと叱る。 「おじさんだって闇の酒作って売ってるじゃん」と少年が言うように、八木は闇酒カストリを販売している。もちろん違法だ。汗が染み込んだタオルを首にかけ、生活の苦労を物語る。荒廃した戦後の東京で奮闘するこの八木の再登場を妻夫木は戦中の軍人姿に対してメリハリをはっきりさせつつ、愛を持って演じているように思う。

再三の登場が不思議な空気感を醸す演技

NHK『あんぱん』©︎NHK 八木は孤児たちに読み聞かせをしてやる。読み聞かせといっても少年少女向けの紙芝居などではない。もっぱら読書家らしくゴーリキーの名作文学などを読む。でもそれを実に楽しげに読み聞かせる。  子どもたちが帰ったあと、側で見ていた嵩が「八木上等兵」と呼びかる。さっきまでの愛の眼差しから翻り、八木は厳めしい表情にパッと変わる。嵩にギロリと向ける、こういう切り替えの演技もメリハリがあっていい。  のぶと嵩が高知に帰り、八木は一旦退場する。代議士・薪鉄子(戸田恵子)の元で働くためにのぶが上京した第17週で、八木が再度登場する。  第82回、盗みを疑われた孤児を味方するのぶが店員男性に絡まれているところへ、紙幣を手にした八木が登場(!)。のぶの左肩を右手でつかみ後ろに下がらせる。下がらせたと同時に左手で握る紙幣を店員の前に差し出して見せる。  あざやかな動作で「これで文句ないだろ」と台詞を決める。再三の登場だけれど、その都度視聴者の目には新鮮に写る。朝ドラ初出演の妻夫木聡は不思議な空気感を醸している。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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