そして、ついに赤信号につかまります。
ピッタリとついてきた後ろの車のドアが開いたかと思うと、いかつい体格の男性が降りてきたんだとか。
「生まれて初めて、血の気が引くという感覚がわかりましたね。心臓が喉まで飛び出してきそうでしたよ」
運転席から降りてきた男性は、ゆっくりと歩いてきて、亜美さんの車へと向かってきます。
そして、運転席の窓の隣に立ち、こちらを覗き込んだそう。
亜美さんは、震える手でほんの少しだけ窓を開けると、いかつい男はこう言ったそう。
「お姉さん、後ろのライト、一つ切れてるよ」
「え…?」思わず亜美さんは声を出してしまったそう。
あおり運転をしてきたその男性は、まるで親しい隣人のように、にっこりと笑っていました。
「男性の笑顔を見た瞬間、身体中の力が抜けました。ものすごい勢いで追いかけてくるから、怖い人に何かされると思っていたので」

感情の渦に巻き込まれた亜美さん。助手席で眠った娘の顔を見て、涙が溢れたそうです。
男性にとっては注意喚起のつもりでも、追いかけられる側には恐怖と危険しかありません。せっかくの善意も、相手への想像力が欠けていたら加害と紙一重になってしまうことがわかるエピソードでした。
<取材・文/maki>