
楽しみにしていた出産後の「お祝い膳」
出産自体は自分の発達障害の特性で困ることはなかったが、病室に戻ったところで部屋の荒れ具合に自分で引いた。病院からもらう書類が多すぎてADHDの特性から整理ができず、とりあえずトートバッグに突っ込んでいたし、着替えやタオルなどが椅子の上に散乱している。改めて個室で良かった。
退院したら1年間の育休に入った夫と二人での育児が始まった。私が入院中に夫が部屋の大掃除をしてくれていて、1週間ぶりに戻った我が家はピカピカになっていた。自分ではここまでできない。料理や洗濯、毎日の掃除もすべて夫がやってくれていたので、私がやることと言えば授乳とオムツ替え、沐浴のみ。産後のボロボロの体には至れり尽くせりの生活だ。
しかし、退院初日の夜に寝ようとしたら大事なものがないことに気づいた。私は顎関節のため寝るときはマウスピースを付けている。入院には持っていかなかったので、夜間に歯を噛み締めていたようで肩こりがひどくなっていた。久しぶりにマウスピースを付けられると思ったのにいつも置いておいた洗面所にない。歯磨きコップか歯ブラシ立てに引っ掛けていたのだが見当たらない。
洗面所を掃除した夫に尋ねると、掃除のときは歯磨きコップの中にあったという。そういえば帰宅してから歯磨きコップの汚さが目に入り、病院でもらった歯磨きコップに変えて古いコップは捨てたのだ。その際、マウスピースが中に入っていることに気づかず捨ててしまったようだ。
マウスピース専用ケースがあるのに面倒でいつも歯磨きコップか歯ブラシ立てに引っ掛けていたのが悪かった……。なかなか時間が取れないが、またマウスピースを作りにいかなければならなくなってしまった。
もう一点、なくしものがあった。息子の児童手当申請のためマイナンバーカードが必要なのに見当たらない。いつも財布に入れているのに……。財布の中を探していると夫も私の財布をのぞき、「カードが多すぎる! いらないカードは捨てよう!」と言い始めた。財布の中はもう行かないと思われる飲食店のカードや割引券、診察券であふれていた。
「このお店は行く?」「この病院は行く?」と一つ一つ夫が尋ね、私はそれに対して考えながらいらないカードを処分していった。
しかし、それでもマイナンバーカードが見つからない。結局、夫が持っていた。入院時に必要で病院の受付で出した後、夫が預かっていたのだった。けれどこの件で財布の中を整理することができた。
他にもADHD由来の誤解があった。私が入院中、夫が部屋を掃除してくれたのだが、私の部屋までは手つかずだった。オムツは近所の薬局で夫が買ってきてくれていたのだが、もしかするとAmazonのほうが安いかもしれないと言い出した。
領収書は顧問税理士に提出するため、私が預かって専用の箱に入れて保管することになっている。既にオムツの領収書を私の部屋で保管していたため、夫が私の部屋に入り、領収書を探し始めた。
領収書は月ごとに提出する。入院したのが8月末で退院月だったため、8月分をまだ提出できておらず、8月分と9月分が混ざらないよう、9月分は箱の蓋の上に置いて保管していた。しかし、その分け方が夫にとってはよく映らなかったようだ。
「こんな分け方するなんてだらしないなぁ」と言われた。
ADHDは片付けや整理整頓が苦手な特性がある人もいる。そのため「だらしない」と言われがちだが、だらしないのではなく「できない」のだ。特に私は視覚分野の情報処理が苦手だと検査で判明していた。視覚から入った情報が脳内でとっ散らかり、整理できないのだ。
また、私は目についたものから取り掛かる特性もある。育休中の夫が家事をすべて担当してくれたが、夫は「順番に」家事を行う。でも私はなぜ目の前にやらなければいけないことがあるのにそっちからやるのかと思い、横から「猫の飲み水替えて」とか「ミルク作って」とか「除湿機の水捨てて」と言っていたら夫から「順番じゃないとできない!」と怒られてしまった。
そうか、定型発達の人は最初から順序立てて物事に取りかかるのか、そうするからこそ私のように散らからずに済むのかと納得した。