同作で演じた若き判事・星朋一は、主人公である佐田寅子(伊藤沙莉)と内縁の関係になる同僚判事・星航一(岡田将生)の長男役だった。正義感に溢れ、仕事熱心だが、少し他者を見下すところもあり、挫折も味わう(同様な役柄だと北村匠海主演映画『明け方の若者たち』(2021年)でのパーマヘアーのできる同期社員役もよかった)。
井上はそうした二面性を極めて精悍な佇まいと視線の微動や一瞥などの節々で表現していた。演技としてはシンプルだが、芸は細やかだ。どんな役にもひた向きで熱心な俳優であることがよくわかる。
『べらぼう』第33回では、ほとんど完璧に画面に収まってみせた。インサート的なワンショット。本好きの定信が寝床にうつぶせになり、両足をぶらぶらさせて読み耽る。
脱力した姿勢にもかかわらず、画面の均衡を保ち、画面構図を支えるだけの強度を井上の演技から感じた。
さらに第34回。老中首座に任命された定信が、江戸市中や城内の自分の噂が記された文書を読む。書面から視線を上げるのだが、ここでは眉間は動かず、皺は寄らない。
余裕の表情だけで場面は成立するとばかり。老中首座になる前となった後で、演技に明確な変化をつけているのだ。
ワンショットの画面に対する収まり方も演技のコントラストも完璧といっていい。何と明確で明快な芝居を心得た俳優なのだろう。
「ヤンチャ系と無気力系のハイブリッドイケメン」とドラマ内で命名された『イケメン共よ メシを喰え』(テレビ大阪・BSテレビ東京、2022年)で、井上祐貴にビビッとときめき、『べらぼう』ですっかりファンになった。
一方で彼の完璧な演技は、均整と均衡を保つばかりが魅力ではない。第35回で主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)が定信の政治をからかうために出版したはずの黄表紙を定信が誤読する。見事なとんちんかんぶりをかなり滑稽に楽しげにも演じてしまえる。
あるいはまた、紀行番組『チョイ住み』(NHK BSプレミアム、2025年7月23日放送回)でメルボルンに短期滞在した井上が、カフェの窓際の席でコーヒーを飲むとき。
YOUのナレーションが「どこか不安げな表情」と代弁するワンショットにも井上祐貴という俳優の魅力的な一面が垣間見えた。有り体にいって、演技も内面もほどよいギャップでキュンとさせてくれる。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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