Entertainment

NHK『あんぱん』を“魅力的な作品”にした2人の若手俳優とは。老けメイクは念入り、所作は控えめに

愛すべき同級生コンビ

 嵩にとっての健太郎は、東京芸術高等学校時代の同級生でもある。第5週第24回、入試会場で隣席だった。卒業後は、嵩が製薬会社、健太郎が広告事業社に入社。当時、二人は一緒に暮らしていた。第10週第47回、嵩が帰宅してきた場面が印象的だ。  台所に立つ健太郎はカレーライスを作っていた。玉ねぎのみじん切りに悪戦苦闘で一人大騒ぎ。後ろにいる嵩が、少し強ばった表情で見守る位置関係のツーショットが、愛すべき同級生コンビのハイライト画面だった。  戦後は、二人手分けして不良品回収。それを闇市で売ってしのいだ。一方、のぶは高知新報に記者として入社する。第13週第65回、採用されたのぶが全力ダッシュする場面がある。嵩と健太郎が座っている前を走っていく。引きの位置に置かれていたカメラが、二人にポンと寄る。  ぽふぽふ白い息をお互いに浮かべて呑気に会話するツーショットがよかった。

北村匠海と高橋文哉が醸す初老感

 上京したあとは立派なものである。嵩は三星百貨店の宣伝部でデザイン画を手がける勤め人、「手のひらを太陽に」の作詞家などを経て、代表作『アンパンマン』の作者になった。健太郎はNHKのディレクター職を勤めあげた。  物語のクライマックスに向けて、それぞれがいい年のとり方をしていく。第24週第118回では、馴染みの喫茶店で健太郎が「定年退職」と口にした。その場面の時代設定は1973年。嵩も健太郎も54歳。白髪交じりのおじさんメガネスタイルが、底はかとない初老感を醸す。  俳優の実年齢(北村が27歳、高橋が24歳)より二回り以上も上の年齢の役を演じなければならない。老けメイクは念入りに。所作は控えめに。ゆるやかな経年の表現。上述した1985年のツーショット的画面の嵩と健太郎は、65歳くらいだろうか。10代から老年期まで若々しい二人の俳優の演技が、きらめく朝ドラ作品だった。 <文/加賀谷健>
次のページ 
高橋文哉演が演じた54歳の健太郎
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ