子どもがほしい願望は、女性と男性では異なります。本書でミカがシュンに語るように<理由はうまく言えないけど、本能?なのかも>という、内なる揺さぶりも大きく作用するのではないでしょうか。
男性であるシュンは<生まれた子に障がいがあったらどうする?>など、リスクが頭をもたげます。あげく<ようは世間体でしょ? 皆子どもがいるから私もほしい。それが普通だから>と厳しい言葉をミカに投げかけるのです。
普段は良好な関係を築きつつも、子どもの話になるとシュンは辛らつです。<普通なんて世間が勝手に決めたものだよ。俺は自分の価値観で生きていきたいんだ>論破して席を立つのが日常。夫婦とはいえ価値観が違うのはしかたないにしても、今まではお互いの価値観をすり合わせて、中間を取ってきました。
しかし子どもについては、産むか産まないか、二択しかないのです。
淡々と平穏に進んでいく日々。どこか物足りなさを感じるミカは、愛情をそそげる子どもという居場所がほしくてたまりません。ゆるやかに続く苦しみに耐えられず、ミカはシュンに離婚を切り出しました。
<作ろう子ども。別れるくらいなら子どもいる方がマシだわ>シュンの回答はミカへの精一杯の愛情なのか、あるいは諦めなのか。やっと譲歩してくれたシュンに、ミカはよろこびを隠せないでいました。ところが肝心の夜の行為はままならないまま。シュンは逃げ腰で、現実を直視していないのです。