「なんとなくですが、その声と笑顔に違和感を覚え、とっさに『
すみません、失礼ですが念のため警察手帳を見せてもらってもいいですか? こんな時代ですので……』と私は答えたんです」

その瞬間、男の表情が固まり、数秒の沈黙が続いたといいます。
「言葉では言い表せない妙な間でした。胸騒ぎというより、本能的な怖さのようなものが押し寄せてきて、鳥肌が一気に立ちました」
すると男は無の表情になり、低い声で「
あ、そこまでのことではないので。もう大丈夫です」と静かにその場を立ち去りました。
モニターから男の姿が現れてから消えるまでわずか数秒の出来事でしたが、美奈代さんの身体は凍りついたようになり、しばらくその場から動けなかったそう。
「そのとき見た男の目が印象的で、
何も感情が宿っていない、黒いビー玉のように無機質な目でした。気づいたら私の心臓は激しく脈打ち、身体は小刻みに震えていたんです」
静けさの中で立ちすくみ、「ちゃんとドアチェーンはかかっていたけど、もしこれを外していたらどうなっていたんだろう?」と想像してしまった美奈代さん。恐怖と混乱の中、親しい女友達の聡美さん(仮名・28歳)に電話をかけて、起きたばかりの出来事を伝えたそう。

「聡美は話を聞くなり、涙声で『ちょっと待って、それ絶対に偽物だよ!』と言ってきました。彼女によると、警察官が聞き込みで訪ねる際は、手帳を提示するのが普通だと聞いたことがあるし、
『そこまでのことじゃない』と手帳を見せずに立ち去るのは不自然すぎると。そして、『美奈代がドアを開けないでくれて本当によかった』と言われました」
なお警察官は、聞き込みの際に必ずしも警察手帳を提示する義務があるわけではないものの、求められた場合には必要に応じて提示し、身分を明らかにする対応を取っているようです。