本作の主人公・久部三成(菅田将暉)は、演劇界の巨匠・蜷川幸雄を心の師とあおぐ若手演出家。エキセントリックな演出力に対して劇団員たちが抗議するものなら、俳優に灰皿を投げたと伝説的に語られている蜷川の身振りをなぞろうとする。
久部が熱くなればなるほど劇団員たちはついてこない。自分で立ち上げた劇団だからといって私物化と独裁化が過ぎている。彼は完全にふてくされて夜の渋谷に飛び出す。
八分坂という商店街で行き着いたのは怪しげなスナック。そこで店番する倖田リカ(二階堂ふみ)に不満話を聞いてもらうが、不明瞭会計でぼったくられる。
会計の代わりに人質になった宝物のシェイクスピア全集を何とか取り返す久部が、迷い込んだのはスナックと同経営のWS劇場だった。袖から舞台をのぞく。リカが踊っている。でもピンスポットライトが足りない。
久部は自然と身体が動く。気付けば照明機器を操り、リカをピンスポで照らしている。「これだ!」という興奮の表情は、まるで1984年の渋谷に向かってタイムマシンで走り抜けるような勢いがある。
菅田将暉の勢いを推進力として、本作はぐんぐん展開していく。第2話から久部はWS劇場の照明技師になり、もう一度自分の劇団を旗揚げしようと野望を温める。
風営法の取り締まり強化で、あれやこれや劇場の営業危機に巻き込まれながら、日々の業務に熱を込める。
所属するダンサーの中ではそれなりに勉強熱心らしいリカが、新しい振付を練習しているところを久部が見つめる場面がいい。かぶりつきで釘付けになる。
ややローアングルのカメラが、菅田を斜めの構図で収める画面。エキセントリックな彼の演技から新たな表情を引き出している。
菅田演じる久部視点でWS劇場の内幕を垣間見るうち、視聴者は遠い過去に時代設定を置く本作の世界観にどっぷり浸りはじめている。
劇場の経営難を打破するための改革案として、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』を旗揚げ公演にしようと決起する展開にはワクワクする。
三谷幸喜脚本を得た菅田将暉は、やりたい放題でドンドコ太鼓持ちになって本作をどんどん盛り上げる。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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