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「口の筋肉が…」おじさん教師演じた36歳・岩田剛典が明かす“長ゼリフ”の裏側。国際映画祭では観客賞

市川らしい“微動”の演技や「くしゃみ」のシーン

金髪 場面写真――市川役は長台詞に対するため息が印象的でもあります。余韻の作り方はどのように工夫するんでしょうか? 岩田:市川は大抵、世間とズレたことばかり言ってる人です。彼が喋り終わった後、何とも言えない空気が自然と流れます。自分の言葉の矛盾だったり違和感に自分だけが気づいてない。そういう社会人のおじさんの空気感を大切にしました。 ――門脇麦さん演じる恋人の赤坂に愚痴る場面がありますが、ソファに座って彼女の反応を聞く市川の少し不貞腐れた表情が、まさに市川っぽいなと思いました。赤坂の話を聞きながら足を微動させるのもよかったです。 岩田:なんとも言えない空気感ですよね(笑)。相手の話をじっと聞いている芝居でもよかったわけですが、市川特有の感じを出したくて何だか動きたくなったんです。 ――アドリブというわけでもなく自然と動くわけですね。 岩田:そうです。監督から「ここで足を動かして」という演出はありません。自分で自由に動かした足の演技です。あの場面は切り返しでカットを割っていますが、他の場面はあまりカットを割らない作品なので、歩き方から指先の動きまで、いつも以上に繊細な芝居ではありました。 ――もう一つ、興味深いのが、赤坂とのディナー場面での大きなくしゃみです。素晴らしいくしゃみです。独特のくしゃみはどういうふうに練習したのか気になったのですが。 岩田:練習はしてないです(笑)。あのシーンぐらいですね、台詞で笑わせないのは。あれはもう僕のくしゃみだけで笑わせなきゃいけないシーンです。脚本のト書きには「くしゃみをする」くらいに書かれていたと思います。テストで一発くしゃみをすると、案外スタッフの方が笑っていたので、なるべく酷くやることだけを考えて「よし、これでいこう」と思い切ってやりました。 ――くしゃみも含めて市川らしい奇妙な動きが多々あります。ランニング中に息切れする小走りも面白い動きですね。 岩田:市川は体力がないんです(笑)。ちなみにランニング後に公園で雨宿りをする場面がありますが、実は脚本上は晴れの設定で、場面も雨宿りではありませんでした。撮影当日に雨が降ってきて、それでも撮るぞと急遽ロケ地を公園内に変更した、偶然の場面です。編集で見ると、それが逆によかったと思いました。

豊かな読み解きができる岩田剛典出演作

岩田剛典――雨宿りのロングショットは特に素晴らしいなと思いました。奥行きのある画面手前に休憩所、後景に野球か何かのグラウンドがあり、画面奥との立体的なバランスによって画面手前にいる岩田さんの演技が物凄く際立つなと思いました。特に野球グラウンドはいつも岩田さんの演技を際立たせる場所というか……。 岩田:よく見てらっしゃいますね。僕がまったく覚えてない(笑)。 ――例えば『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、2023年)第1話で奈緒さん演じる主人公と花見会を抜け出す名場面では、途端にグラウンドが背景に広がり、画面奥までピントが合うわけです。『DOCTOR PRICE』第2話でも草野球仲間の医師と歩く印象的な引きのツーショットがグラウンドの側でした。『金髪』では雨の日の偶然が重なり、あの素晴らしいロングショットが生まれたわけですね(笑)。 岩田:ワハハハ。自分も気づかないマニアックなところを深掘りしていただいて……。『あなたがしてくれなくても』は夜の場面ですよね。ピンポイントで指摘されると、あぁ、そうだったかもしれません。流石にたまたまですよ(笑)。 ――岩田さんの演技は作品間を超えて豊かな読解が可能だと思います。実際、坂下監督の演出も他作品との間で共鳴し合っていて、雨宿りの場面では即興的にフランス映画の巨匠エリック・ロメール作品を念頭に置いていたようなのですが。 岩田:市川と板緑が会話する映画館のシーンでは、顔にシアターの明かりが当たる描写など、クラシカルな映画から影響を受けてらっしゃる坂下監督の演出意図を感じ取りました。本当に映画がお好きな方なのだろうなと思います。その意味でも『金髪』は、監督の色が濃い作品だと思います。 ――第38回東京国際映画祭のコンペティション部門出品作ということも、作品の色濃さを象徴しています。 岩田:主演映画が国際映画祭に参加するのは、僕にとって初めてのことです。正直、撮影中には思ってもみなかったので嬉しかったです。せっかくエンタメを生業にしているのなら、海外の方にも認知されたい。そう口々に言っていますが、国際映画祭という場も含めて、『金髪』がなるべく多くの方に知っていただける作品になってほしいと思います。 岩田剛典<取材・文/加賀谷健 撮影/鈴木大喜>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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