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「こんな運転手いない」とのツッコミも…それでも木村拓哉のタクシー運転手役が“良い”と言えるワケ

木村拓哉の表情が一変、その「迷い」の先の言葉に感動がある

映画「TOKYOタクシー」 もう1つ、今回の木村拓哉で重要なのは「生真面目さ」だ。例えば、序盤に「こんなおばあさんがお客でガッカリしているんじゃないの」と言われると、すぐに振り返って、心から驚いた表情で「いえ、とんでもない!」と否定する。そうしたところで「ああ、ぶっきらぼうに思えるけど、素直でいい人なんだろうな」と伝わるだろう。  そして、倍賞千恵子が重く苦しい過去の物語を話し、現在のパートに戻ると、それまで笑顔だった木村拓哉の表情が一変している。とても真剣で、相手を慮りつつ、どう言葉を選べばいいか迷っていることが伝わるだろう。  さらに、過去の物語を一通り語り終えた後に、木村拓哉は「聞いてはいけないこと」を聞いてしまう。その間違ってしまったことへの焦りを経て、彼女が「こうして今も生きて、自分とこうして話していること」を肯定する言葉。その1つ1つが愛おしい。  その愛おしさは、これまでの「俺様」的な役柄も演じてきた木村拓哉のイメージとの良い意味でのギャップがあるからこそではないか。だからこそ、それまでの迷い方と、その末に口にした優しい言葉が、より感動的になっているようにも思えたのだ。  実際に木村拓哉の衣装合わせを行ったとき、山田洋次監督は「人当たりがいいわけではないが家族思いの優しい男」というイメージを伝え、木村本人の意見も聞きながら、キャラクターが際立つジャンパー姿のメイン衣装が決まったのだそうだ。その甲斐もあって、演技はもちろん、その佇まいからも「いい人」であることが伝わるだろう。

原作『パリタクシー』から変わったことは

映画「TOKYOタクシー」 最後に、『TOKYOタクシー』と、その原作となるフランス映画『パリタクシー』との違いも簡単に記しておこう。同作は2023年に日本で公開された際にも評判を呼び、21館で始まった公開規模に対して興行収入1.7億円を超えるという、破格のヒットを記録していた。  『TOKYOタクシー』の大筋の物語は『パリタクシー』に忠実だが、娘の進学にまつわる事情や、昔の日本における女性の抑圧にまつわる事情など、細かなアレンジが効いている。  さらに、『パリタクシー』では「成長した息子の姿がはっきりと映像で見える」のに対し、『TOKYOタクシー』では「顛末が言葉だけで語られる」ことが、より切なさと苦しさを際立たせる効果を生んでいた。だからこそ、前述した木村拓哉が「自分とこうして話していることを肯定する」様も、より尊く感じられるようになったといえる。  さらに、ネタバレになるので詳細は秘密にしておくが、終盤の重要な場面でも大きな変更点がある。それは大きな後悔と反省であると同時に、「1日の寄り道」がよりかけがえのないものにも思えてくる改変であり、だからこそ最後の木村拓哉の表情にも、とてつもない感動があったのだ。『パリタクシー』と『TOKYOタクシー』の違いを見比べてみるのも、また一興だろう。 <文/ヒナタカ>
ヒナタカ
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
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【公開情報】
タイトル:『TOKYOタクシー』
公開表記:11月21日(金)全国公開
©︎2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
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