それにしてもあのKEY役の破壊力は凄まじいものだった。第1話で倫子の同級生・鳥居小雪(大島優子)が看板娘の居酒屋に初めて立ち寄る場面での彼は黒いニット帽を深くかぶり、あざやかな金色を前髪だけで控えめに主張していた。
でも金髪の魅力は隠しきれるものではない。その後の場面で背中合わせでしっぽり晩酌を楽しむKEYに酔っぱらった倫子がぶつかるというラブコメ的なハプニングがある。
立ち上がろうともしないKEYは「いい加減静かにしてもらえませんか?」と言いながらニット帽を脱ぐ。全体があらわになった金髪。この破壊力(回想場面では翻って黒髪ストレート)!
破壊力がみなぎる場面が他にもある。第1話終盤、KEYの毒舌でプライドをずたずたに傷つけられた倫子たちが、自分たちは人生のバッターボックスにも立てていなかったことに気付いてバッティングセンターに行く場面。
「あのクソ金髪男!」と一球入魂しながら空振りを続けているところへKEYが偶然通りかかる(彼はいつもここぞという瞬間に必ず現れる)。小窓から中の様子をのぞく彼の背景に注目。
極端に白飛びした画面上、坂口がまばゆい光を背負っているように見える。あざやかな金髪の色合いがこの光を受けて神々しいばかりに縁取られていた。
そういえば桐谷美玲主演のラブコメ映画『ヒロイン失格』(2015年)でクラスのモテキャラを演じた坂口が初登場する場面でも後光が差すライティングが印象的だった。
あざやかな髪色の坂口をさらに際立たせるための照明設計は2014年に俳優活動を本格化させた初期出演作に共通している。逆に落ち着いた髪色の役柄を演じる作品では照明も控えめで坂口のオーガニックな魅力をそのまま画面に取り込む。
映画『盤上の向日葵』でも邪魔者を排除したことを知ってほっとする場面での坂口は激しい息づかいで緊張感をうんでいた。上条役の髪色は金髪ではないが、回想場面と現在の場面での端正な髭面がいいコントラストだった。
坂口本人も『35歳の少女』(日本テレビ系、2020年)で演じた役について「髭の結人もかっこよかったですが、さっぱり結人もいいですね」と放送当時にTwitter(現在のX)上に綴っている。
坂口健太郎は自由自在なビジュアルの変化をうまく演技に落とし込みながら、定期的なイメチェンで心を新たに俳優活動をさらなる大舞台へと洗練させていくのだ。
<文/加賀谷健>