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「タクシーは危ない!」ドライバーが告発するゾッとする実情

 昨年12月に刊行された『潜入ルポ 東京タクシー運転手』(文春新書)。本書の執筆にあたってノンフィクション作家の矢貫隆がタクシー会社に就職し、ドライバーとなって「デフレ不況下の東京」(本書紹介より)を流す。そこで見えてきたのが、一向に上向かない実体経済とそこから派生する業界の問題点でした。

運転手の収入が減り、事故が増えた元凶



潜入ルポ 東京タクシー運転手 著者が取材を開始したのが08年。リーマンショックの年です。そこを境に一日の平均売上が右肩下がりで落ちていったといいます。しかし矢貫氏は、このタクシー不況の大本が02年の規制緩和であると指摘します。

「タクシー業界が、と言うより、タクシー運転手が強烈な打撃を受けることになる規制緩和(改正道路運送法の施行を指す)。実施されたのは、まさに、東京のハイヤー・タクシーによる輸送人員が約4億5800万人にまで落ち込んだ最中の、2002年(平成14年)2月1日のことだった。」 (第1章 受難の時代 より)

 分かりやすく言えば、客は減り続けているのに車だけが増え続ける状況が出来上がってしまったのです。すると乗客の獲得をめぐり、各社が激しい競争を繰り広げることになる。

「結果として現われてきたのが、運転手の収入減と事故の増加だった。」(はじめに より)というのですからシャレになりません。

「恐ろしくチープなタクシーのタイヤ」



「タクシーは危ない!」 ゾッとする運転手の告発 そんなドライバーたちの置かれた苦しい状況は、他ならぬ乗客の安全にも影響する。矢貫氏は、タクシーのタイヤこそが怖いのだと明かします。

「何しろ、履いているのは、値段がチープなら性能も恐ろしくチープなタクシータイヤだ。グリップ力を筆頭に、直進性やら排水性といった性能を犠牲にしてのコスト最優先。そんなタイヤで首都高のきついコーナーやら東名道をぶっ飛ばすなんて、とてもじゃないが怖くてできやしない。」
(第1章 受難の時代 より)

 思わず背筋のぞっとする話です。さらに怖いのは、ドライバーのほとんどがそれを知らないこと。だから高速道路でも平気でスピードを出しているのだそう。もしそんなタクシーに乗ってしまったら、一言。「もう少しスピードを落としてくれ」とお願いしましょう。著者からのありがたいアドバイスです。

 しかし本書が見据えているのは、さらに根の深い問題であるように思います。こうした負のスパイラルを断ち切るために車の台数を制限しようとする動きがあると、マスコミや改革派の議員から「業界の保護だ」とか「消費者の利益は置き去りに」などの声が上がるのはおなじみの光景です。矢貫氏はそこに合理性を欠いた日本社会の閉塞感を見ているのではないでしょうか。

「規制緩和によって事業者が競争意識を持ち、それによって多様なサービスが登場する。利用者の利便性も高まる。営業努力をしない事業者は淘汰され、良質な事業者が生き残って、タクシーの台数は適正水準に収まる」という規制緩和の目論見は見事なまでに外れ、そして生じた大混乱だったし、そもそも、規制緩和の理屈を、そっくりそのまま、乗客の安全がかかっているタクシーに当てはめようとしたこと自体が間違っていたのではないか。」
(第5章 翻弄され続ける運転手 より)

 本来、単なる手段であるはずの“規制緩和”や“改革”が、知らず知らずのうちに目的になってしまった。そんな日本の失われたン十年を、タクシー業界が映し出しているようにも思えるのです。

<TEXT/比嘉静六>

潜入ルポ 東京タクシー運転手

安心・安全を標榜する公共交通機関・タクシー。だが実態や、いかに? ノンフィクション作家自らハンドルを握り、デフレ不況下の東京を走り抜けて分かった「事故」「売上げ」「道路案内」そして「お客」の悲喜こもごも




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