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犬や猫が生きづらい社会は、人間にとっても生きづらい【殺処分ゼロへの願い】

 ネット上には猫や犬の可愛い動画があふれ、かつてないほど犬猫好きが増えているように見える昨今。でも一方で、年に約12万8000頭の犬猫が殺処分されている現状があります(平成25年度)。その現実を取材した『お家に、帰ろう 殺処分ゼロへの願い』を上梓した写真家・尾崎たまきさんと、『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』の著者である木附千晶さんの対談を、前回(「犬猫の殺処分の現場を見て、ショックでしゃがみ込んだ」)に続いてお届けします。

殺される前日に、家族になった愛犬・クマ

⇒【写真】はコチラ http://joshi-spa.jp/?attachment_id=355963
犬の殺処分ゼロを達成した熊本市動物愛護センター

2012年度、犬の殺処分ゼロを達成した熊本市動物愛護センター(以下、犬の写真は尾崎さんの写真集より)

尾崎:動物は絶対に飼い主を裏切りません。不要犬として施設に持ち込まれたコが、飼い主を必死でかばっている姿も見ました。「きっと迎えに来てくれる」と信じながら、殺されていったコたちのことを考えると本当に辛くなります。「もっとたくさん救えた命があったのでは」と。 木附:尾崎さんはカメラマンとして殺処分の現実を伝えるだけでなく、個人として迷子犬を引き取っているじゃないですか。恥ずかしながら私は保健所にも譲渡会にも行ったことがありません。身勝手な言い分ですが、どうしても一匹だけを選ぶ勇気がなくて。
熊本市動物愛護センターの譲渡会

熊本市動物愛護センターの譲渡会

尾崎:私が「いちばん幸せな時間!」と思うのは、施設から引き取った愛犬・クマと一緒に眠るときです。あと1日、引き取るのが遅かったらクマはこの世にいなかったかもしれません。そう思うと、こんな幸せをくれたクマと出会えたことが奇跡のように思えます。
クマ

殺処分の前日に、尾崎さんが引き取ったクマ

木附:分かります。今、家にいる猫たちをはじめ拾った猫たちはみんな、それぞれの家の住人に大きな幸せを振りまいてくれています。一度は捨てられた命が多くの人を救い、かけがえのない時間を与えてくれているのです。本当に不要な命なんて無いんだと思います。 尾崎:なんでか分からないけど、ただ一緒にいるだけで満たされますよね。クマを預けて出張したりすると寂しくて、戻るとどんなに遅くても引き取りに行っちゃいます。

誰かの世話をすることで、幸せにしてもらってる

木附:「世話をしてあげている」つもりでいますが、実は人間の方が動物からたくさんのものをもらっているんですよね。  ミーちゃんは地域猫でしたから、本当に多くのものを大勢の人に与えてくれていました。不登校の子、会社でいじめられている人、職を失ってしまった人…いろんな人がミーちゃんに話しかけてやるせなさを解消し、弱さを受け止めてもらって安心し、世話をすることで自分の存在意義を再確認していました。 ⇒【写真】はコチラ http://joshi-spa.jp/?attachment_id=355964
地域猫・みーちゃん

木附さんが著書に書いた、迷子になってしまった地域猫・みーちゃん

尾崎:動物って小さな存在なのに本当に大きな力を持っています。ミーちゃんは自由に行き来していた猫だったから余計ですね。もしミーちゃんが室内飼の猫だったら、そこまでのつながりや人の輪をもたらしてはくれなかったでしょう。
無防備な姿のみーちゃん

道端でこんな無防備な姿を見せていたみーちゃん

木附:ミーちゃんを探す情報を集めるうちに、それまで赤の他人だった人が、どんな人で、どんな人生を抱えているのかを知るようになりました。そうやって自然と人間関係が生まれ、商店街から無くなりかけていた人のつながりができていきました。 (『迷子のミーちゃん』を原案とした)映画『先生と迷い猫』でも一緒です。ミィという一匹の猫のおかげで、「正しい人」の仮面をかぶって人を寄せ付けなかった校長先生が「本当の自分」を見せざるを得なくなり、地域の人たちに溶け込んで行きます。 ⇒【YouTube】10/10(土)公開『先生と迷い猫』本予告 http://youtube.be/dJDe8Il0DEs

小さく弱いものが生きられる度量が広い社会

尾崎:伝染病もあるし、猫の安全のためには室内飼がいいことは分かっています。でもミーちゃんの話や「動物との共存」を考えたとき、猫が安心してそのへんで昼寝することもできない世の中ってどうなのかなぁと思うときもあります。  たとえば野良犬が多いタイのタオ島では、国が狂犬病の注射を打って野良犬との共生を実現していました。人間の都合で捕まえて殺処分にするのではなく、共存できる方法もあるのではないかと思うのです。 木附:人間の都合や効率だけを優先させた社会というのは、人間にとっても息苦しいのでは。ミーちゃんみたいな小さな存在も安心して共に暮らせる度量があり、多様性を認められる社会の方が信頼関係は生まれやすいし、ずっと楽に生きられるはずです。  そんな人間が忘れがちな「幸せに生きるために大切なこと」を動物たちはいつも思い出させてくれます。
熊本市動物愛護センター

熊本市動物愛護センター

(対談3回シリーズ・完) ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 【尾崎たまきさんプロフィール】 熊本県出身の写真家。水中写真のほか、水俣、三陸、動物愛護センターなどをライフワークとして追い続けている。写真集に『うみかぜ日記』『水俣物語』など。最新刊は『お家に、帰ろう 殺処分ゼロへの願い』 【木附千晶さんプロフィール】 木附千晶さん臨床心理士。IFF CIAP相談室セラピスト。文京学院大学非常勤講師。子どもの権利のための国連NGO・DCI日本『子どもの権利モニター』編集長。共著書に『こどもの権利条約絵辞典』など。愛犬家・愛猫家でもあり、著書『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』を原案とする映画『先生と迷い猫』が10月10日に全国公開
木附千晶
臨床心理士。「CAFIC(ケフィック) 子ども・おとな・家族の総合相談 池袋カウンセリングルーム」主宰。子どもの権利条約日本(CRC日本)『子どもの権利モニター』編集長。共著書に『子どもの力を伸ばす 子どもの権利条約ハンドブック』など。著書に『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』、『いつかくるペットの死にどう向き合うか』など。
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