続いては、音楽プロデューサーをしているスーザン。大きな仕事を任され、前途洋々かと思いきや、「どうしようもない鬱の真っただ中にいる」と言って著者の診察を受けに来たのだそうです。そんなスーザンの場合も、キーワードは“実感”。
彼女の夢を実現させるため、
惜しみない援助をしてきた両親。しかし、そんな両親の存在こそが、スーザンを悩ませているのです。どういうことなのでしょう?
それは、彼女が自らの道を歩みだそうと思っても、これまでのサポートがあまりにも手厚すぎて、一体どこから本当の人生が始まるのか、その区切りが見えなくなってしまったのですね。
だから、今している仕事や持っている家や車も、全て両親が用意してくれたもののように感じてしまい、日常に確かな実感が持てなくなる。すると、
関心は未来のことばかりになってしまい、一方で
満たされない現実が山積みになっていく。
それが、スーザンにおける“燃え尽き”なのですね。
以上2組の症例から、コーエンは現代社会ならではの問題を見るのです。それは、“成功こそが人生最大の目的であり、幸福である”とする風潮。なぜこうした
ポジティブな姿勢が、“燃え尽き”を生んでしまうのでしょう?
それは、“~しなければならない”制限よりも、“~できる”自由を優先させてしまうことで、“自分が何者であるか”が見えなくなってしまっているからなのですね。小さいころから“頑張れば~できる”とか“なりたいものには何でもなれるよ”と応援され続けてきたために、自分のキャパが際限なくあるように感じられてしまう。
まさに、根拠のない全能感ですね。
これをさらに悪化させてしまうのが、
教育熱心で理解ある両親の存在なのです。確かに目標を達成しようとする子供を応援すること自体が悪いのではありません。ただ、それだけでは片手落ちで、サポートしながらも同時に
“物事には限界がある”という真理も教えなければいけません。
それは確かに辛い決断です。しかし全ての出来事が夢の実現や成功といった将来のために費やされてしまうとしたら、“今このとき”を充実させる時間は、一体どこで得たらよいのでしょう?
“成功するための自由を許す”現代社会は、逆に
自由に埋もれて身動きが取れなくなっている多くの人を生んでしまっているのかもしれません。