そんなひきこもりパラノイアが今一番美味いと思っているご当地フードは、博多の銘菓「通りもん」だ。
カテゴリとしては皮に餡が入っているので饅頭になるのだろうが、ただの饅頭ではない。
まず原材料がすごい。「砂糖、小麦粉、バター、マルトース、卵、水飴、加糖練乳、脱脂粉乳、生クリーム、蜂蜜、トレハロース、膨張剤、香料」。
デブの素と言うより、デブを擬菓子化したら通りもんになると言っても過言ではない。だが太る食い物というのは、基本的に美味いのだ。カロリーは最大の調味料、とはよく言ったものだ。
この通りもんも原材料通りの美味さである。してはいけないことをしている感がまたいい。世の刺激が欲しい人たちも、不倫とかよりは通りもんを食った方がいいんじゃないだろうか。
また、食べる時のシチュエーションも大事だ。通りもんは、自分で一箱買って食うよりも、会社で、誰かの土産として一つだけ配られた物の方が断然美味いのだ。
もし会社で自分だけ、通りもんが配られなかったということがあったら、悪質ないじめなので、その場で退職して労基へいこう。
なぜ私は博多で「通りもん」でなく「堅パン」を買ったのか
なので、先日博多へ行った時、私は通りもんを買わなかった。じゃあ何を買ったかと言うと「堅パン」である。
堅パンとは、堅いパンのことであり、所謂乾パンのことだ。だがその名の通り、堅さが半端ではない。顎を鍛えるというためというより、破壊目的で作られたとしか思えない。味はというと美味くも不味くもない。
私は帰路の新幹線で、堅パンをかじり、顎関節症を患っている自慢の顎に深刻なダメージを与えながら、次に通りもんが食べられるのはいつだろうと思った。
好きだからこそ、金で一箱買って食べつくす、などということはしたくない、運命的な出会いをしたいのだ。
そんな気持ち悪い感情さえ抱いてしまう通りもんを越える名産はあるのか。次回からテーマとなる食べ物は担当から送られてくる予定だ。
「名産というテーマは良いが、毎回お取り寄せとかするの大変だな」とわかりやすくゴネたのが功を奏した。
私の予想では何か堅いものが送られてくるような気がする。
<文・イラスト/カレー沢薫>
【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『
クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『
アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『
ヤリへん』『
やわらかい。課長 起田総司』『
ねこもくわない』『
ナゾ野菜』、コラム集に『
負ける技術』『
もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『
ブスの本懐』などがある。