Gourmet
Lifestyle

土佐のお菓子「ケンピ」は物騒なほど堅い【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

うちが元祖だ、パクリは許さない、という迫力

 このように一見、昔から愛される素朴なお菓子「けんぴ」だが、やはり土佐というか幕末ロックな部分が随所に見受けられる。  まずパッケージ裏に「お願い」という体で「最近パクりのケンピが元祖とフカして売ってあるが、うちが元祖だ、必ずうちのを買え(意訳)」と書かれてある。  おこである。お怒りはもっともだが、それをパッケージに書いちゃうのはすごい。  だがよく考えて欲しい、現代日本はそれが正当な主張であってもしづらい雰囲気だ。パクリや無断転載だってそれをやめてというと「パクリじゃなくてオマージュでありリスペクトだ、この程度で心が狭い」「ネットにアップしといて転載されたくないとかどうなの?」とまるで、被害者が悪いことをしたみたいに言われてしまう。そうなると「もう何も言わない方がいい」と泣き寝入りになってしまうことも珍しくはない。  そんなポイズンな世の中にドロップキックなのがこのケンピだ。  俺は正しいと思ったことは言う、それもツイッターの捨てアカとかではない、もうパッケージで言っちゃう、という心意気である。  名を明かして自分の意見を言うというのは必ず反論される恐れがあるということでもある。それが出来るというのは自信があるからだ。この自信があるものを自信を持って出す、ということが、現代ではしづらくなっている。すぐに調子に乗っていると叩かれるというありさまだ。そんな世の中において、このケンピの姿勢は唸らざるを得ない。

土佐はケンピに制圧されている?

 だがケンピの魂はそこだけに留まらない、パッケージにはさらにこう書かれている。  「パクリにはまねできない土佐唯一の銘菓として全国に知られている」と。  言い過ぎではないだろうか、こちらが緊張してきた。  多分、土佐には他にも銘菓があるのでは、と思うが、これだけ言い切るぐらいだから、土佐はケンピに制圧されており、本当にケンピがワンアンドオンリーなのかもしれない。  ちなみにこのケンピ、グルメ漫画「美味しんぼ」にも掲載されたことがあるらしく、菓子と一緒にそれが同封されていた。  それによるとケンピという名前は朝鮮の犬の皮を揚げた菓子に似ているのでケンピと名付けられたということらしい(編集部注:語源には諸説あり)。  異国の食文化にケチをつける気はないが、日本で「ほう!ワンちゃんの皮ですか!」とテンション上がる奴は少数派だと思う。  食は誰も傷つかないピースフルな話題と言ったが、やりようによってはいくらでもロックになるし、人をドンヨリさせることができるとわかった。 <文・イラスト/カレー沢薫> 【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】 1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』『ねこもくわない』『ナゾ野菜』、コラム集に『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『ブスの本懐』などがある。
1
2
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ