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なぜ男は風俗に行くのか。漫画家・鳥飼茜が考える

『おんなのいえ』『先生の白い嘘』『地獄のガールフレンド』など、女性が直面する問題を描いて高い評価と支持を集める漫画家・鳥飼茜さんが、昨年10月から『週刊SPA!』(以下、SPA!)で「ロマンス暴風域」を好評連載中です。  物語は、仕事も恋愛もうまくいかず疎外感を味わう主人公・サトミンが、店で出会った風俗嬢に運命を感じて恋に落ちるストーリー。しかしそこは一筋縄ではいかないのが鳥飼作品、男性読者に都合のいい展開にはなりません。『週刊SPA!』2月21日発売号に掲載の第11話でも、男女の風俗に対する認識の違いを巡るやりとりが描かれています。
「ロマンス暴風域」第11話より

「ロマンス暴風域」第11話より

 これまで女性視点の作品が多かった鳥飼さんが、なぜ男性視点で風俗を題材にした連載をはじめたのか。自身の心境の変化や、男の生きづらさへの考え方を語ってもらいました。 ※鳥飼さんが男の単純さを語る「日刊SPA!」のインタビュー(https://nikkan-spa.jp/1291405)もあわせてお読みください。
鳥飼茜さん

鳥飼茜さん

男の人の生きづらさが見えてくるようになった

――現在、『週刊SPA!』で連載中の「ロマンス暴風域」は、風俗嬢に“ガチ恋”してしまうサトミンという男性が主人公です。なぜ風俗を題材にした漫画を描こうと思ったんですか? 鳥飼:もともと、風俗で働く女の人たちの事情や気持ちをすごく知りたい時期があって、ずっと風俗嬢の漫画が描きたかったんですよ。 ――どうしてそんなに風俗に興味が……? 鳥飼:私だったら、自分の好意や欲求と無関係の見ず知らずの“男性”の射精を自分の体で受け止めるというのは、つらいし苦しい。すごく怖い。でも、自分と同じ女の人の中には、お金のために割り切っている人もいれば、その仕事にやりがいを感じている人もいるでしょうし。それを完全に他人事とは思いたくなくて。 ――それが今回、風俗嬢ではなく、風俗を利用する男性視点からの物語になったのはどうしてでしょう。 鳥飼:自分の周りの男友達や男性編集者に、「どういう気持ちで風俗に行くの?」「風俗嬢と私と、どう気持ちを切り替えて接しているの?」って聞いて回ったんですよ。みんな、苦笑いしながらもけっこう答えてくれて(笑)。そしたら、風俗に対する私の印象が少し変わっていったんですよね。 鳥飼茜さん_2――それは、どんなふうに変わったんですか? 鳥飼:それまでは、「女は金で買える」という男の人の感覚に抵抗感があって、女の人の“性”がただただ売り物にされている場所だと思ってたんですけど。話を聞くうちに、どうやら私が思っている以上に男の人は女の人に対して、母親といるような安心感を求めていて、甘えたい・癒されたい・救われたいと思ってるんだなって。 ――風俗嬢にも性欲だけでなく、そういうものを求めているってことですか? 鳥飼:ええ、女の人に嫌われるのをとにかく怖がっていて、決して自分を傷つけてこない保証がある女の人を欲しがっている。風俗は、そういう男の人にとっての避難所でもあるんだろうとすごく思いました。と同時に、男性の不自由さや生きづらさもだんだん見えてくるようになって……。 ――具体的には、どんな生きづらさですか? 鳥飼:男は働いて一定の年収があって当たり前、女をリードできて当たり前、みたいな社会からの見えない圧力がたくさんあって、仕事を失ったり、今いる自分の立ち位置を失うことをすごく怖がってるでしょう? そこから弾かれることでみじめに感じている男性も多いのでは、って。 ――そう思うようになったのは、鳥飼さん自身の考え方に変化があったんでしょうか。 鳥飼:そうですね。以前は、女だけが損をしていて、男の人はすごくのうのうと生きているように見えたんですよ。だから、『先生の白い嘘』や『地獄のガールフレンド』のような漫画でも、ずっと女性の問題に目を向けてきたんですけど。でも、自分の子供も男の子だし、男の生きづらさの問題を放っておいたらまずいことになるなって。
鳥飼さんの作業部屋

鳥飼さんの作業部屋にて。愛猫のグルさん

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週刊SPA!2/28号(2/21発売)

表紙の人/ 池田エライザ

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