ふらーっと深夜のコンビニに立ち寄って、ついシュークリームを1つ買ってしまった。「1つぐらいならいいや」。あたしの中の悪魔が囁く。買ってすぐに袋を開け、シュークリームにかぶり付いた。手と口の回りにクリームがべっとりとついている。シュークリームがこんなにも美味しいなんて。甘味があたしの脳内に溶け込んだ。

ここから先はあまり憶えていない。もう一度コンビニに戻って、食パンや、スパゲッティ、唐揚げに、おにぎり、アイスに、ケーキ、シュークリーム5つ、カップラーメンに1.5リットルのコカコーラと牛乳。合計で4,578円分を買って家に帰った。
なぜ、そんなにたくさんの食べ物を買ったのか自分でもわからなかった。シュークリーム1個。たった1個を食べたことで、食欲の“タガ”が外れたのだ。あたしの理性は崩壊し、買ってきた食べ物、4,578円分をすべてお腹におさめた。食べている間は無我夢中だった。シュークリームだけは美味しく感じたけれど、あとは、機械のように食べて、食べて、泣きながら食べた。
満足だった。けれど、膨らんだお腹を見て現実に引き戻された。いけない。どうしよう……。
頭の中が真っ白になる。また太ってしまう。また同じ繰り返しだ。あたしは、トイレに駆け込んで人差し指を喉の奥に突っ込んだ。『オェー、オェー』食べたものが便器の中に戻されてゆく。何度も何度も、指を突っ込み、食べ物を吐き出した。食べ物が出て行くたびにうっとりするあたしがいた。トイレの便器につかまったまま朝を迎えた。
その次の日から、食べたら吐けばいいということを憶えてしまい、昼間は何も食べず仕事の終わった深夜0時から食べものを買い込んで、食べ吐きを繰り返した。吐いてしまうので、あたしはさらに痩せていった。
「痩せたね」
店長に言われて、あたしはデブ専のお店を辞めた。そして、隣町の少し高級デリヘルの面接に行った。それが今のお店だ。その頃には体重が40キロになっていた。デブのときからすると半分だ。

内緒だけど、いまだに食べ吐きは続いている。たまにくらくらするのは、低血糖になるからだと本に書いてあった。あたしの美貌など嘘で塗り固められた作り物に過ぎない。過食嘔吐をしているから、美容に手が抜けないのだ。
けれど、この身体を手に入れた以上あたしはいつもいつまでたってもお店のナンバー1でなくてはならない。
あたしは綺麗なのだから。
<取材・文/藤村綾>
【藤村綾】
あらゆるタイプの風俗で働き、現在もデリヘル嬢として日々人間観察中。各媒体に記事を寄稿。『俺の旅』(ミリオン出版)に「ピンクの小部屋」連載、
「ヌキなび東海」に連載中。趣味は読書・写真。愛知県在住。