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“のん”のLINEモバイルCM曲「エイリアンズ」に、なぜ心を掴まれるのか

「双子座グラフィティ」、ポップス好きのハートをくすぐる

 まずはデビューアルバムからのシングルカット「双子座グラフィティ」。パッと聞いて誰かの声に似ているなと思いませんか? そう、小田和正ですよね。当時も音楽雑誌で、オフコースを引き合いに出されていたのを覚えています。 ⇒【YouTube】はコチラ キリンジ – 双子座グラフィティ https://youtu.be/0-996MGdBM4  そして歌い出しのコード進行が、いかにもポップスマニアのハートをくすぐるのですね。  特に、<あぁ 君は>の“は”で使われる、マイナーセブンフラットファイブというコード。これが、“あぁ、ポップスですわ”と気分を盛り上げてくれる。たとえば、ELOの「Moment in Paradise」とか、コリーヌ・ベイリー・レイの「Put Your Records On」などでも使われていて、ストレートなルートからちょっと寄り道する具合で、あいまいに響く和音なのですね。  とはいえ、そんなものは彼らにとっては枝葉も枝葉。どれだけコードをいっぱい使おうが、ハーモニーが実に自然で、メロディと言葉の組み合わせに“いかにも頑張りました”といった工夫の痕跡を残さないから素晴らしい。  野球の名選手が猛練習を見せびらかさないのと一緒で、キリンジの曲にも“たったいま鼻歌で作りましたけど”みたいな風情を感じるわけです。(もちろん、そんなことは絶対にないのですが)

「Drifter」、さりげない機能美

「Drifter」を聴くと、ランディ・ニューマンが「時の流れに」(ポール・サイモンの代表曲)について語った言葉を思い出します。 <「時の流れに」を聴いてごらんよ。あっちこっちに曲が飛び交っている。あれだけのものを作るには、相当のスタミナとタフさが必要になる。ハンパじゃなく、相当に。>  (『インスピレーション』 著 ポール・ゾロ 訳 丸山京子 アミューズブックス p.353) ⇒【YouTube】はコチラ キリンジ – Drifter https://youtu.be/LHF_mFLeEJc  この曲のMVを見ると、アコースティックギターを弾く高樹の左手がコードチェンジに追われているのが分かります。その一方で、曲は全く慌ただしくないのです。歌詞カードを見なくても、何を歌っているかよく分かる。ファンの間では詞の解釈を楽しむ人たちが多いようですが、筆者がより強く感じるのは、語句の持つ音が曲中で無理なく響く機能美です。 「エイリアンズ」には、こうしたエッセンスがより濃縮されて詰まっているのだと思います。しかも、表現の方法がとことんさりげない。ご紹介した「双子座グラフィティ」や「Drifter」が足し算だとすれば、「エイリアンズ」の豊かさは引き算によって導き出されている。  時を経てもなお新鮮なゆえんかもしれません。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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