外銀マンを見下す20歳“港区女子”が、自分に絶望している理由
「ねえ、ユリカ」
「なぁに?」
「なんでユリカは、私みたいな大学二年生デビューと仲良くしてくれるの?」
いつも抱えている疑問がぽろっと口から零れた。ユリカは一瞬キョトンとしたあと、口に手を当てて笑った。
「なにそれ、変なの。アイって本当に面白いね」
「え、ごめん」
「謝るのもおかしいって」
「そう……だよね」

自分の言葉に急に恥ずかしくなり、彼女を直視できず思わず下を向く。すると、両頬に柔らかな細い何かが触れた。何かと思い、顔を上げればドアップの彼女がそこにいる。
「私は、アイが綺麗で好きなの」
耳を疑うその言葉を私の脳は即座に処理できない。
「ユリカのほうが――」
「今はまだ分からなくていいよ」
そう微笑み、ウェイターを呼ぶ。時計を見れば、今日の集合時間まで30分ほど。ユリカは長財布から銀色に光るカードを取り出すと、サッとウェイターに渡す。
「お化粧室に行ってタクシー拾お」
「そうだね! あ、お会計いくらだった?」
戻ってきたウェイターからカードを受け取ると、こちらを見向きもしないまま鞄を片手にゆっくりと立ち上がった。
「いいの。私が払いたいから」
そう言って、彼女は手を差し出してきた。その白くて折れてしまいそうな手を取り、ラウンジを後にした。何人かからちらりと送られた視線が少し恥ずかしい。
「そういえばさ――」
恥ずかしさを少しでも消そうと、何も意味がない言葉を彼女に投げた。
「カードいいなー。私もパパからもらいたい」
「勝手に持たされただけよ。父親からではないけど」
「え?」
いつもより少し早めの言葉は聞き取りづらく、思わず聞き返してしまいそうだったけどそれはしなかった。いや、できなかった。
問いの瞬間、手を握るユリカの手がこわばったのは、きっと気のせいじゃなかったから。



