Lifestyle
Love

外銀マンを見下す20歳“港区女子”が、自分に絶望している理由

私を“憐れな女”だと笑ってほしい

 <深夜2時。ユリカはマンションのベランダにいた>  見下ろしたビル群は何時になっても暗闇に染まらない。チカチカと輝く色とりどりの光たちに胸が高鳴ったのは、もう遠い昔のように感じた。 「親じゃないよ、か」  数時間前、咄嗟に言ってしまった言葉をなぞる。後悔をしているとかではない。でも、アイの反応が頭から離れようとしなかった。  彼女の、心から驚いた声色。あんなに驚くことなのかと思う半面、やっぱりあの子は幼いな、と笑ってしまう。 (港区も、ハイスペックと言われる男性たちも、ホテルのラウンジも、全部何も意味なんてない) 夜景「ユリカ、こんな時間にベランダにいるなんて、どうしたの」  後ろから声がした。振り向いた先にいたのは、スーツ姿の似合う長身に、整った顔立ちの男。少し皺が目立つ。 「おかえりなさい」  そう、ここの家主である彼だ。 「風邪ひいちゃうよ、中に入りなさい」  ゆっくりと私の手を引く。彼の体温が身を包んだ。年相応じゃない甘ったるい香水と、年を重ねた男性特有の匂いが不協和音を生み出す。首や耳へのキスが止まない。この行為に感情を昂らせ、心を躍らせたのはいつまでだっただろう。もう感情は微動だにしなかった。 「こんなつまらない景色観てて楽しい?」  耳元で囁きながら彼の手がパジャマの下を這い始める。 「綺麗じゃない」 「ただのオフィスビルばかりだよ」  彼の呼吸は荒い。ベッドに向かう余裕すらないらしく、いつのまにか閉められた窓に手を付けるよう囁かれた。カチャカチャと後ろから音が聞こえる。 「つまらない景色だけど、こんな風にするのは燃えちゃうな」  チカチカと輝くビルたちは、私のことをどう思っているのだろう。窓にうっすらと映る私の顔は“無”そのものだから、憐れんでいるかもしれない。それなら好きなだけ憐れんで欲しいし、可哀想だと笑ってくれたほうがずっといい。 (きらきらひかる)(お空の星よ) 「ユリカ、可愛いよ」「可愛い」 (まばたきしてはみんなを見てる) どれだけ高いところに昇っても東京で星なんて見えないし、 (きらきらひかる)(お空の星よ) (みんなの歌が届くといいな) 私の声なんてどこにも届かない。 <文/マドカ・ジャスミン> 【マドカ・ジャスミン】 あまたのメンズと飲み交わした経験から合コンコンサルタントに。ウェブメディア「AM」「MTRL」などでライターとしても活動。公式LINEブログ更新中
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ