――ご自身の役を演じたルーク・トレッダウェイの演技はどうでしたか?
ジェームズ:映画を撮影する前に、カフェや駅前などでルークに実際にバスキングをしてもらったんです。小銭を入れる容器まで用意してね。でも、通りを歩いている人は、誰一人として立ち止まらなかったんだよ! その上、彼は路上で寝ることにも挑戦しました。もちろんボディーガードがこっそりと見張っていたけれどね(笑)。
それにしても、オーストラリアとロンドンイングリッシュが混じった、僕独特のイントネーションや話し方をルークが完璧にマスターしたのには驚きました。撮影が終わって音声のミキシングをしていたときに聞いたルークの声は、自分の声だと本当に思ったぐらい。
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』より
――映画と原作ではいくつか違う点がありますよね。
ジェームズ:ラブストーリーの部分はちょっとハリウッド的な脚色だけどね(笑)。でも、ジェーム役のルーク・トレッダウェイと、ジェームズと恋に落ちるベティ役のルタ・ゲドミンタスは現実に結婚していてもうすぐ子供も生まれるんです。だから彼らが見せるラブストーリーは本物。ステキだよね。
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』より
本を書くことによって、自分のなかにいる“悪魔”を追い出せた
――映画で描かれているジェームズと父親の関係も物語の要ですが、ご自身とお父さんのありのままの関係を描いているのですか?
ジェームズ:ジェームズと父親の映画のシーンと、現実の僕たちにも似たようなことが起こりました。イギリスで両親が離婚して僕は母と一緒にオーストラリアへ行き、父はイギリスに残った。だから、父は僕の子供の頃をあまり知らない。僕がミュージシャンを志すために18歳でロンドンに戻って来てからは、父は僕に失望していました。何と言っても僕は、“悪夢のような息子”だったからね。
――それは、辛い少年時代に原因があったのでは?
ジェームズ:オーストラリアでは母が僕を連れ引越しを繰り返したから、友達もできず、何度もいじめに遭った。そのうちに、色々な問題行動を起こすようになって、精神科に何度も連れて行かれました。その度に様々な病名をつけられて、多種多様の薬を投薬された。確かに、辛い子供時代だったかもしれない。
僕にとって本を書くことは、自分のなかの悪魔を追い出すためだったのかなと思います。過去について書きながら、自分の間違いを認めて受け入れるプロセスは、まるでセラピーのようだった。それが、まさか、自分の本がこんな風に世間を騒がせることになるとは思わなかったけれど。
――本の執筆のほかにも、チャリティ活動をしているとか。
ジェームズ:ビッグイシュー・ファンデーション(ジェームズが売っていた、ホームレスの自立を支援する雑誌)、動物愛護活動をするブルークロス、キャットプロテクションリーグなどと提携して活動しています。大切だと思えるチャリティなら、なんでもやってみたいと思ってます。
――人生のどん底を経験したわけですが、現在の人生で大切にしていることはなんですか?
ジェームズ:今、こうやって自分のストーリーを皆とシェアできることが、今の僕にとってはかけがえのないことなんです。自分にできる範囲で誰かのために役に立つことをする。“声無きもの(ホームレス)”の非公式なアンバサダーとして活動しているつもりです。ボブと出会い、意図したわけではないけれど、ボブと僕のパートナーシップが世界中を旅して様々な人と出会う素晴らしいきっかけを作ってくれたことに感謝しています。
――今この瞬間にも孤独や絶望に悩んでいる人にどんなメッセージがありますか?
ジェームズ:そうだね……孤独に陥っている人は、まず心を開いて助けを求めてほしい。知らないだけで、色々な支援プログラムがあるんです。誰かに頼ることを恐れないで助けを求めて。そうすれば、必ず誰かが応えてくれるから。ボブと僕のストーリーから「人生にはセカンドチャンスはあるんだ」と感じてもらえれば嬉しいです。
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』は8月26日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開
(C) 2016 STREET CAT FILM DISTRIBUTION LIMITED ALL RIGHTS RESERVED.
配給:コムストック・グループ
<TEXT/此花さくや PHOTO/林紘輝>
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映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米ACS認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。セックス・ポジティブな社会を目指してニュースレター「
此花わかのセックスと映画の話」を発信中。墨描きとしても活動中。twitter:
@sakuya_kono