私の心に、ケフィの老化に関して一抹の不安がよぎったのは、確かケフィが12歳になる年の宮古島旅行でのことです。
それまでは、人間が外出の支度をすると「ひとりで宿に置いていかないで!」と、なんとかして一緒に車に乗り込もうと大騒ぎしていたのに、「まぁ、いいか」とでも言うように、あきらめがよくなったのです。

毎年滞在した宮古島でのケフィ
泳ぎ慣れているはずのビーチで、海に投げたボールを取りに飛び込んだものの見失い、大慌てしたのもたぶん同じ頃だったと思います。
「ほら、ケフィすぐ後ろにあるよ!」と声をかけても、波の加減なのか、太陽が水に反射して光ってしまうせいなのか、見えないらしく懸命にクルクルと泳ぎ回って探していました。その頃から、自宅近所の公園でボール投げをしていても、
ボールが飛んだ方向とは違う方向に走り出すなんていうことがたまに起こり始めました。
「最近、移動しながらトイレをすることも増えたし、後ろ足で立ち上がることも減った気がする。もしかして老化が始まっているんじゃない?」
ケフィの様子を見た家族が、そんなことを言うたびに、私は強く否定しました。

ゴハンちょうだい!催促するケフィ
「何歳になっても筋肉は鍛えられるって言うでしょ。あんなに運動させているんだから、足腰が弱るなんてことはあり得ない」
そう言っては、散歩のときには足腰を鍛えるためにわざとアップダウンの多いコースを選んだり、「足を意識して使うので筋肉が付く」というので足首にサポーターを巻いて歩かせたりしていました。
ゴールデン・レトリーバーの平均寿命は10歳から12歳と言われています。子犬の頃からお世話になっている動物病院では「この年で、こんなに元気なゴールデンはめったにいない」と言われたり、旅行先で「10歳過ぎのゴールデンとは思えない!」と言ってもらえることが多かったケフィですが、老いは着実に始まっていたのだと思います。
でも、その頃の私はけっしてそれを認めようとはしませんでした。
「こんなに食欲もあるし、みんな『10歳過ぎとは思えない』と言ってくれる。まだまだボール投げだってできるし、何一つ持病も持っていない。ケフィはまだまだ大丈夫」と、思い込もうとしていました。
2014年11月3日、ケフィが特発性メニエール病を発症して倒れるまでは・・・・・・。
<TEXT/木附千晶>
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【木附千晶プロフィール】
臨床心理士。IFF CIAP相談室セラピスト。子どもの権利条約日本(CRC日本)『子どもの権利モニター』編集長。共著書に『子どもの力を伸ばす 子どもの権利条約ハンドブック』など、著書に『
迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』など