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まるで「エクソシスト」のような症状…謎の脳の病と闘った女性にインタビュー

【映画『彼女が目覚めるその日まで』原作者スザンナ・キャハラン インタビュー】

スザンナ・キャハランさん

スザンナ・キャハランさん

 明るく快活でキチンと仕事をこなす人が、ある日突然、卑猥な言葉や辛らつな言葉を吐くようになったり、家を散らかし放題にしたり、急に泣き出したかと思えば踊りだしたり、まるで人が変わったような言動を取り始めたら、どう思うでしょう? まず疑ってしまうのは、精神障害ですよね。

 映画『エクソシスト』でも悪魔に取りつかれた少女が、病院で辛い治療を受けるシーンがありますが、彼女のモデルになった実在の少年は、実は「抗NMDA受容体脳炎」を患っていたという説もあります。

 2007年に発見されたこの病気に、2009年、ニューヨーク・ポスト紙の記者であるスザンナ・キャハランさんがかかってしまいました。病名を突き止めるまでの紆余曲折、闘病と回復の壮絶な記録を医療ノンフィクションとして発表(日本語版は『脳に棲む魔物』KADOKAWA刊)。

 一躍ベストセラーになったこの本を、クロエ・グレース・モレッツを主役に迎え映画化した『彼女が目覚めるその日まで』が12月16日に公開されます。


 日本でも年間1000人ほどが発症し、原因不明と言われるこの難病と闘ったスザンナ・キャハランさんに、映画にかける想いや闘病経験についてインタビューしました。

映画によって失った時間を取り戻した



『彼女が目覚めるその日まで』より

『彼女が目覚めるその日まで』より

――出来上がった映画を観てどう思いましたか?

スザンナ:素晴らしいの一言につきますね! スザンナを演じたクロエ(・グレース・モレッツ)はとくに素晴らしいと思いました。私の身振り手振りや話し方のクセなんかを見事に再現していると、友達に言われました(笑)。

 また、抗NMDA受容体脳炎という疾患ついて正しく伝えようとする情熱と学習意欲に満ちていて、彼女は本当にプロフェッショナルだと思いました。私自身は闘病している時期の記憶がないのでわからないのですが、私の周りの人たちは皆、この映画は病気についてリアルに伝えている、と言っています。

スザンナ・キャハランさん――闘病中の記憶はまったくないのでしょうか?

スザンナ:断片的にはあります。でもそれは、幻聴や幻覚を見たときの“恐れ”や“怒り”といった感情のみ。病院での記憶はネガティブな感情以外ありません。

――では、病院のシーンは観ていて相当辛かったのは?

スザンナ:そうですね。スティーヴン(当時の恋人、現在は夫)にとっては、彼の隣で私が発作を起こすシーンが一番辛かったみたい。

 ただ、神経科医のスヘール・ナジャー医師がとうとう病名をつきとめてスザンナにハグをするシーンには心から感動しました。あんな素晴らしい出来事でさえ私は覚えていない……でも、自分が失った時間を映画によって取り戻せたんです。私の生死の分かれ目を決めた、人生で最高の感動的な記憶がよみがえったような感覚でした。

『彼女が目覚めるその日まで』より_2

『彼女が目覚めるその日まで』より

他人の伝記を書くような気持ちだった



――闘病中の記憶がほとんどないなかで、どのように伝記を書いたのですか?

スザンナ:まず、自分が覚えていることを書き出してみると、少ししか覚えていないことに驚きました。その後、ジャーナリストのスキルを活かして他人の伝記を書くようなつもりで、両親、スティーヴン、弟、友人、同僚に聞き取り調査を行い、医療記録もすべて読み込みました。

 自分の記憶、周りの人の記憶、医療記録。これら3つのレイヤーを重ねてみると、自分の記憶と周りの人の記憶との間に大きな食い違いがあることに気がついたんです。また、家族から見た私と、病院側から見た私の間にも大きな違いがあることも。

 そういった違いを客観的事実によって埋めていき、なんとか本を書き上げることができました。ただ、本の最後の1/3は、私の記憶や感情に基づいた回復期を綴っています。この部分を書くことが、精神的に一番難しかったかもしれません。

スザンナ・キャハランさん

アメリカの医療の問題を象徴する医師たち



――映画のなかで、スザンナは様々な医師に、双極性障害、統合失調症、多重人格障害などと誤診されますよね。神経内科の権威と言われるベイリー医師に至っては、スザンナの病気はアルコールとストレスが原因だと診断して、スザンナ自身や家族の意見を聞き入れませんでした。

『彼女が目覚めるその日まで』より_3

『彼女が目覚めるその日まで』より

スザンナ:ベイリー医師は私の病気を突き止められなかったから、自分の経験と私への先入観に基づいて診断を下したわけです。伝記を書くために私を診断した医師たちのカルテを調査したのですが、ベイリー医師に私は毎日ワインを“2杯”飲むと伝えたはずなのに、彼が記したカルテには私が毎晩ワインを“2本”飲むと書かれていたんです。ベイリー医師があえて嘘を書いたとは言いませんが、私のような若い女性に対する先入観が無意識的に働いて、間違ったのかもしれません。

 私の言うことに耳をかたむけずに誤診したベイリー医師には、強い怒りをずっと抱いていました。しかし、色々と考えていくうちに、ベイリー医師はアメリカの医療が抱える問題を象徴しているのではないか、と思うようになったんです。

 病院が利益を出すためにはひとりの医師は1日30人以上の患者を診なければいけません。すると、ひとりの患者につき5分ほどしか時間を費やせない。ベイリー医師が誤診したのは彼ひとりのせいじゃないかもしれない……彼への怒りは、本や映画を通じて問題提起をすることによって少しは和らいだかもしれません(笑)。

スザンナ・キャハランさん――現代の医療の問題はほかにあると思いますか?

スザンナ:たいていの病院は精神科、神経科、外科、など各診療科に分かれており、それぞれの間に隔たりがあります。私は自身の経験から、病気が発症してから全快するまでの間には、診療科の垣根を越えて専門医たちが協力して患者をサポートするシステムが必要とされていると強く感じました。これは作品を通して改めて伝えたかったことでもあります。

 それに、絶対にひとりの医師の診断を鵜呑みにしない、ということも。複数の医師の診断を仰ぐことが大切です。

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再発リスクは25%。その恐怖と闘いながら

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