サオリさんが、マユコさんを含めた同い年の女性社員らとランチに行ったときのこと。ある女性社員が、こんな相談をしたことがありました。
営業部に、気になる人がいるの――。
「すぐにマユコが、その気になる彼と親しい同僚にLINEして、確認を取ってくれたんです。そしたら、『彼、フリーらしいよ!』って。それで、皆で応援しようって話になったんです」
ところがその日を境に、マユコさんはその彼に対して親しげに接するようになりました。
マユコさんから頻繁に話しかけ、いつの間にかあだ名で呼び出したのです。そして会話の途中には、もちろんボディタッチ。彼がコンビニに行こうとすると、小走りでついて行くことも……。その様子について、ワタルさんはこう話します。
「確かに前よりコミュニケーションが増えたなとは思いました。マユコさんと彼は別のチームですが、チームを横断していろいろ学びたいとマユコさんが話していたので、それでかなと思ってました」
一方で、相談した女性社員の心中は複雑なものがあったのでしょう。
その女性は、マユコさんのいるランチには参加しなくなってしまいました。
「さすがに、マユコに言いました。『
彼女がどう思うか考えたら?』って」
するとマユコさんはキョトンとした顔で、目をパチクリさせると、「普通にしてたつもりだよ? 同じ部署なのにあまり話したことなかったなと思って、よく話しかけるようにはしてたけど……。
あの子の好きな人だからって、そういうの関係ないと思う」
サオリさんが答えに窮していると、マユコさんは結婚指輪を見せるポーズを取って続けました。
「
だって私、結婚してるし。旦那さま一筋だよ?」
「『馴れ馴れしくしすぎだよ』って言葉が出かけたんですけど、これって私が言うことじゃないんですよね(笑)。嫉妬? って思われるのも嫌だし。
そもそも男性陣は、マユコの接し方を不快に感じているようには見えないし」
今も相変わらずのマユコさんですが、女性たちの冷ややかな視線を感じたのか、ワタルさんを呼び出して相談を持ちかけたそう。
普通にしてるだけなのに、一部の女性から誤解されてしまってつらい、変な噂を流されて怖い、と……。
「すごいですよね(笑)。もう極力関わらないって決めました。なんで無関係な男性に相談するのかがわからない。たぶん、ワタル以外の男性にも相談してるんじゃないですか? この相談って、かわいそうな自分を演じる『手段』であって、『目的』じゃない気がします」
とはいえ、誰も表立って彼女を非難できません。なぜなら、悪いことをしていないから。ある意味無敵の存在、なのです。
<TEXT/筒井あかり>