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NHKのW杯テーマ曲に賛否両論、Suchmosは「盛り上がらない」か

 ワールドカップロシア大会の初戦でコロンビアに2-1で奇跡の勝利を収めたサッカー日本代表。NHKの中継も平均視聴率48.7%を記録し、日本中が大興奮しました。  その放送でハーフタイムショーに登場したのが、いま若者に人気のバンド「Suchmos(サチモス)」。パブリックビューイングが行われていたNHKホールから今回のテーマ曲「VOLT-AGE」を地上波で初披露し、さらにヒートアップするかと思われたのですが……。 suchmos 意外なことに、これが賛否両論だったようなのです。「意味不明な上にかっこよくない」という批判の一方、すかした雰囲気がクールでかっこいいといった感想や、「勇ましくないのがいい」という面白い反応も。これは「HINOMARU」(RADWIMPS)に違和感を感じた人の意見でしょうかね。

人気のSuchmosも、一般層にはシャレオツすぎた

 会場のお客さんはというと、拍手をするでも歓声をあげるでもなく、どう反応したらいいか分からないといった雰囲気でしたし、普通のサッカーファンは「盛り上がらない」という意見が多いようでした。  確かに、過去の大会で好評だった「タマシイレボリューション」(Superfly)や「Mugen」(ポルノグラフィティ)などと比べると、「VOLT-AGE」は異質です。メロディよりもグルーヴ重視の曲調で、一緒に歌えるサビもないし、歌も楽器も似たようなフレーズを繰り返すだけ。なので思いっきり感動したい人たちには退屈だったのでしょう。普段からこの類の洋楽を聞き慣れた人じゃないと、とっつきにくかったかもしれませんね。  その意味で、会場の客層や視聴者との間にミスマッチがあったと言えそうです。一般向けにはシャレオツすぎたんですね。  でも、だからといってSuchmosの音楽がハイレベルだとは、筆者は思いません。車のCMで起用され大ヒットした「STAY TUNE」や、代表曲の「MINT」などにも通じるのですが、このバンド、なんとも評価に困るのですね。  決してかっこ悪くもダサくもないのだけど、両手をあげて“サイコー!”と叫ばせるほどの説得力はない。楽器の演奏や歌も、耳を覆いたくなるほどヘタでもない代わりに、聴き手を圧倒する迫力はない。良質のソウル・ジャズやファンクなど、ハイセンスな音楽を幅広く聴いてきたのだろうけど、そのエッセンスを教科書的に消化しているだけ。良くも悪くも、意外性のないバンドなのです。

Suchmosはきっといい人たちなのだろう…

 好きな音楽を素直に表現する。その意味では、Suchmosの面々はきっといい人たちなのだろうと思います。ただし、屈託のなさが裏目に出る恐れもあります。好きな音楽と上手に表現できる音楽は、必ずしも同じではない。そういう客観的な視点を失ってしまう可能性です。  たとえば、今回の「VOLT-AGE」のように重厚なリズムを強調するにも、彼らの歌や演奏ではパワー不足。単純に骨格や筋力がその種の音楽には向いていないのです。  デザインが気に入ったからといって、どんな服を着ても似合うわけではないのと一緒ですよね。その人のキャラクターに合ったスタイルを確立することが大事なのですが、Suchmosには、まだそれが見つかっていないように感じられるのです。 「盛り上がらなすぎ」とか「かっこよくない」とかのイチャモンも、キャパ以上の表現を無理してやっているように見えたからという面は否めないでしょう。  というわけで、バカ正直にスティーリー・ダンやジャミロクワイを目指すより、あえて軽薄でバタ臭い音楽をやってみてはどうでしょうか? そのぐらい生意気なのもいいと思うんですけどね。 <文/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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