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「節約したくて万引き」する主婦たち。その影にある夫婦問題とは

 万引きは言うまでもなく犯罪です。でも、その罪を犯した人の中には「万引き依存症」に悩む人がいることはご存じでしょうか。  東京・大田区にある大森榎本クリニックの精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)で新刊『万引き依存症』の著者である斉藤章佳氏は「万引き依存症には女性、しかも主婦が多い」と指摘します。なぜ多くの女性は、いけないとわかっていながら万引きを繰り返してしまうのでしょうか。
斉藤章佳さん

斉藤章佳さん

※以下、『万引き依存症』より一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したもの。

なかでも30~50代、60歳以上が多い

 万引き依存症から抜け出したくて当クリニックまでたどり着いたのは、どんな人が多いのか。2016年の専門外来開設以来受け入れてきた217人の実態を紹介します。  まず男女比ですが、当クリニックの場合は圧倒的に女性が多いです。年齢層では29歳以下の若年層は少なく、30~50代の働きざかりの世代、そして60歳以上の高齢者層が多いのが特徴です。  生活状況を見ると、家族と同居している人が過半数を占め、現在夫・妻がいる人も同じく半数以上になります。大まかにいうと家庭人が大多数で、女性にかぎっていえば主婦が多いです。  ここからは当クリニックで聞き取った、典型的なストーリを交えながら人が万引き依存症になるきっかけを探ります。

「節約」から万引き依存症に――40代女性・Eさんの場合

「節約」から万引き依存症に「俺たちも早めに家を建てないとな」「そのためには、毎日の出費をしっかり引き締めていこう」「頼んだぞ」――夫にそう言われた日から、主婦であるEさんの頭から「節約」の二文字が消えることはありませんでした。  雑誌の節約レシピを熱心に見たり、スーパーやドラッグストアで底値をチェックしたり、できるかぎりのことをしていたある日、買い物かごに入れるべきドレッシングの瓶を無意識に手提げバッグに入れてしまいました。  気づいたのは店舗をあとにしてからのこと。Eさんは一瞬あわてましたが、そのままもらっておくことにしました。<私は毎日、節約をこんなにがんばっているんだから、このぐらい許されるよね。ドレッシング代が浮いたし、これも節約になる……>と自分に言い聞かせながら。  以後、Eさんはスーパーで買い物をするたび、何かしらの商品を一点バッグに入れ、レジを通さずに店を出ることになりました。しかしほどなくして、その品数は増えていきました。 「節約したくて万引きをはじめた」  これは、女性の万引き依存者にみられる代表的な動機です。現在、当クリニックに通っている1割強が、節約がきっかけで万引きをはじめたと言っています。「平成26年版 犯罪白書」の「前科のない万引き事犯者 動機」という調査結果によると、女性は29歳以下をのぞくすべての年代で、「節約」が1位。しかも65歳以上は78・6%と非常に高い割合を占めています。  この問題を考えるうえでのキーワードは「日常」です。  Eさんの場合は、夫が軽い気持ちで言ったことを本人が深刻に受け止めたのが事のはじまりでした。
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節約という名の「経済的DV」
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