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がんはなぜできる?みんなの誤解に苦しむがん患者達

環境要因が関わる癌

 上の図で環境要因が大きな原因となっているものは、どれになるでしょうか? 肺がんや食道癌、胃がん、皮膚がん、子宮頸がん、肝臓がん・膵臓がんで強い要因です。  これは、皆さんもご存知のタバコや、ウイルス感染などが原因で起こるものです。タバコは肺がん・口腔咽頭がん・食道がん・胃がん・大腸がんなどの多数の癌を起こします。過度の飲酒は肝臓がん・膵臓がんなど、日焼けは皮膚がん、ピロリ菌は胃がんなど、ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんなど、B型・C型肝炎ウイルスは肝臓ガンと関係します。 禁煙 逆に言えば、この環境要因が原因でなる癌は予防できる癌です。禁煙すること、ピロリ菌の除菌をすること、余計な日焼けを防ぐこと、子宮頸がんワクチンを打つこと、肝炎ウイルスに対して適切な治療をすることで予防できます。まだ、判明していない環境因子が関わっている可能性はもちろん否定できませんが、それらでおこる遺伝子異常には特徴があるので、そのことから考えると、環境因子が大きく関わっているがんはもうあまりないのではと考えられています。

患者の生活習慣が原因で起こるがんは何%?

 日本では、がんと生活習慣の関係がとても強調されます。多くの人がほとんどの原因が生活習慣だと思っています。  では、実際に日本人でがんになる人の何%くらいが、自身の生活習慣の影響で起こっているのでしょうか?先ほどのデータは日本人に特化したものではないので、過去の日本人のがん発生を調べた研究結果を見てみたいと思います。2005年の日本人におけるがん発生データを元に計算された論文(※2)があります。この結果が以下です。 ⇒【グラフ】はコチラ https://joshi-spa.jp/?attachment_id=880341 過去の日本人のがん発生の要因 生活習慣でがんの原因になるものの圧倒的1位はタバコです。男性の癌の29.7%, 女性の5%の癌はタバコが原因で起こっています。次に関わっているのが飲酒です。飲酒は男性の9%, 女性の2.5%の発生に関わっています。この二つは皆さんがご存知の通りです。  では、それ以外の肥満・運動不足・野菜摂取等などはどのくらい関わっているでしょうか?これらはあまり大きな影響を与えておらず、それらを全て足しても男性の4.4%、女性の5.0%の発症に関与しています。  感染性要因はその中の一部は患者の生活習慣によると判断できるものもあるのですが、ピロリ菌のように患者が意図せずになるものも多く、また原因は患者個人というより公衆衛生対策の問題に起因するものが多いので、今回は患者の生活習慣と関連するものとはせずに含めないでおきます。 飲酒 そうすると、生活習慣が主な原因で起こっている癌の割合は、男性では(喫煙29.7% + 飲酒9% + その他4.4% = 43.1%)。女性では(喫煙5% + 飲酒2.5% + その他5% = 12.5%)となります。男性の生活習慣に関わるものがかなり多い結果になっているのが、上の最初に示した図と比べて乖離があると感じる人がいるかもしれないですが、これは日本人には肺がんがとても多いため、その影響が大きくでているためです。女性の癌では生活習慣が関わるものは少ないということがわかります。  タバコを吸っている人が癌になることの因果関係は言われている通りですので、こればかりは患者の生活習慣が要因であったと言わざる得ません。しかし、喫煙を抜くと、その他の生活習慣が関わっているのは男性で13.4%, 女性7.5%しかないことがわかります。この結果でわかるのは、非喫煙者の発がんにはその人の生活習慣は大きく関わってはいないという現実です。

環境要因が主要因ではない癌はたくさんある

 環境要因が大事で、それを止めることで、癌を予防しようというのはもちろん大事なことです。ただ、これをあまりに強調するために、一般の方は癌の原因のほとんどは環境要因だと思い込んでいる人が多いのが問題です。  上の図を見てもらえば分かりますが、環境的要因は一部のがんの重要な原因となっていますが、実はほとんど環境要因が関わらない癌がありますし、多くの癌は環境要因よりも偶発的原因の方が強く関係しています

多くのがんは過去の悪い行いでなったのではない

 今回で最もお伝えしたかったことがこちらです。日本では、「病気=過去の行いが悪い」という因果応報説を信じる人が多く、そのことが問題を起こしています。今回お示ししたように、実際にはたくさんの癌が患者の過去の行いとは無関係に、偶然に発症しています。しかし、この因果応報説を信じる人があまりに多く、患者は何か変なものを食べたからではとか、運動しなかったからではなどと、他人から言われなき非難を受けたりします。誤解から患者を傷つけないで下さい。  多くのがん患者さんは、何か変なものを食べたから癌になったのではありません。ヒトという生き物にはどうしても癌という病気が起こってしまうのです。それはがん患者さんが悪かったからではありません。がん患者さんを何も考えずに責めるのはとんでもない間違いであることが多いことを知ってください。また、がん患者さん自身も、自分の過去の行いが悪かったのではと責める必要なんてありません。癌患者さんの過去を責めて、その心の呵責を元に勧誘するイカサマ治療などにも騙されてはいけません。

まとめ

 癌は、遺伝的要因、偶発的要因、環境要因の3つで起こります。一部のがんを除いて、多くのがんの発生には偶発的要因が最も関わっています。がんの多くは、患者が何か過去に悪いことをしたから起こっているわけではなく、ヒトという生き物には長生きすると、この病気が潜在的に起こってしまうリスクがあるのです。間違った誤解から癌患者さんを責めたり、自分自身を責めたりしないでください。  遺伝的要因はごく一部の癌のみで関わります。環境要因では、タバコはとてつもない重大な原因であるのは間違いありませんが、その他の生活習慣から起こる癌の割合は一部であることを知る必要があります。割合が低いとはいえ、この環境要因で起こる癌は、現在では予防できる癌ですので、正しい情報を理解して予防することが必要です。 ※1 Tomasetti C, Li L, Vogelstein B. Stem cell divisions, somatic mutations, cancer etiology, and cancer prevention. Science. 2017 355:1330.  ※2 M. Inoue N. Sawada T. Matsuda M. Iwasaki S. Sasazuki T. Shimazu K. Shibuya S. Tsugane「Attributable causes of cancer in Japan in 2005-systematic assessment to estimate current burden of cancer attributable to known preventable risk factors in Japan」 <文/大須賀 覚> 大須賀 覚【大須賀 覚】がん研究者。筑波大学医学専門学群卒業。医学博士。現在、米国エモリー大学ウィンシップ癌研究所に所属。かつては日本で脳腫瘍患者の手術・治療に従事。その後、基礎研究の面白さに魅了されて癌研究者に。過去にはノーベル賞受賞者が一同に会する「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」に、若手研究者の日本代表に選出されて参加。臨床と基礎研究の両面を知る背景を生かし、一般向けにがんを解説する活動も行っている。ブログ:http://satoru-blog.com/
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