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毒親になる側も不幸… 虐待を生きのびた『母さんがどんなに僕を嫌いでも』原作者は語る

歌川 たいじ 「新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも」KADOKAWAより

歌川 たいじ 「新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも」KADOKAWAより

 虐待の多くは子連れ再婚家庭(内縁関係を含む)、とりわけシングルマザーが再婚した家庭で起こっています。  この日本は、シングルマザーにとって暮らしやすい国ではありません。母子家庭の約半数が貧困家庭です。ダブルワーク、トリプルワークをして、懸命に子供を育てようとするも、平均年収は200万円程度。さらに、シングルマザーに対する世間の冷たい目が追い打ちをかけます。  シングルファーザーが子育てしていたら、周囲の人たちが心配し、こぞって手助けする場合が多いのですが、それがシングルマザーだと「できて当たり前のことができていない」と批判にさらされたりします。子供の運動会にお父さんが行けない場合と、お母さんが行けない場合では、風当たりの風速は全然違いますよね。  その上、職場では「シングルマザーは子供優先で仕事の成果を期待できない」などと厄介者扱いされたりすることも頻繁に見受けられるのです。  女性が自立や精神の安定を求めて離婚すると、まるで苦行のような試練が待ち受けていたりするものなのですね。  そんな中、「やはり自分ひとりでは立ち行かない」と、再婚相手を求める気持ちが起こっても無理からぬこと。再婚相手を頼る気持ちが大きく膨(ふく)らんでしまい、見捨てられることを恐れるあまり、再婚相手が子供を虐待しても止められない…そんなケースが数多くあります。
歌川 たいじ 「新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも」KADOKAWAより

歌川 たいじ 「新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも」KADOKAWAより

 また、再婚ファミリーもまた貧困に陥るケースが少なくありません。お母さん自身がストレスから精神が不安定になり、「言うことを聞かない」「食べ物を粗末にした」など、ちょっとしたきっかけで虐待したケースも多々あります。  児童虐待はもちろん、絶対に許されるものではありません。しかし、虐待してしまう親を責めるだけで解決する問題では決してないのです。女性ばかりが割を食う社会を少しずつ変えていく必要があるのだと、私は考えています。

「毒親」にならないためにできること

 拙著「母さんがどんなに僕を嫌いでも」は、私が子どもの頃に母親から虐待を受けた経験を描いてはいますが、決して母親を一方的に悪者として描いてはいません。お読みいただいた方々からは、「自分は虐待まではしたことがないけれど、ストレスが高じたときに子供につらくあたってしまった経験がある」「もし支えてくれる人がいなかったら…そう想像すると、紙一重なのではないだろうか」というお便りがたくさん寄せられました。  誰もが母子ともに幸福な未来を夢見て、子供を産むのだと思います。さまざまな逆風にさらされるうちにストレスが高じ、我が子から「毒親」と思われてしまう。そんな悲劇に見舞われないように、なにかできることはないものでしょうか。
歌川 たいじ 「新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも」KADOKAWAより

歌川 たいじ 「新版 母さんがどんなに僕を嫌いでも」KADOKAWAより

 たったひとつ言えることは、「孤立しないこと」だと私は思います。児童虐待が起こった家庭の親たちは、多くの場合、世間から孤立しているからです。貧困家庭で虐待が多く起きるのは、貧困が孤立を生み出しやすいからだとも言えるでしょう。逆に貧困に直面していても、孤立しない親の家庭では虐待が起きることは少ないのです。 「頼れる人など誰もいない」「どうせわかってもらえない」「暮らしの実態を誰にも話せない」と意固地になるのではなく、相談できる人、話を聞いてもらえる人を確保することが、とても大切です。  人づきあいするお金がない、コミュニケーションが下手だというのであれば、公的機関やNPOの相談サービスなどをぜひ、利用してほしいと思います。  我が子を虐待してしまう可能性は、多くの人がゼロではないと、私は思っています。「うちの母親も、そんな、誰が落ちてもおかしくはない穴に落ちたのだろう」と、私はそう解釈しているのです。  そうならないために、相談できる相手は絶対にいるのだということを、日本の女性みんなに、ぜひ覚えておいてほしいのです。 <文/歌川たいじ & 女子SPA!編集部>
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