愛犬が崖から落ちてケガ。そして飼い主が気づいたこと|ペットロス Vol.20
<16歳の愛犬を亡くした心理カウンセラーが考えるペットロス Vol.20>
心理カウンセラーの木附千晶さんは、16年一緒に暮らしたゴールデン・レトリーバー「ケフィ」を2017年1月に亡くしました。
ケフィはメニエール病などと闘い、最後は肝臓がんのために息を引き取ったのです。前後して3匹の猫も亡くし、木附さんは深刻なペットロスに陥ってしまいます。自分の体験を、心理カウンセラーとして見つめ、ペットロスについて考えます(以下、木附さんの寄稿)。
若い頃に蓄えたワクワク感や楽しさ――。
そんな“あの頃”の感覚がケフィに生命力を与えているということ。その思い出がある限り、ケフィの心はいつでも“あの頃”に戻り、今を楽しむことができるのだということ。
それは私にとって、久々の嬉しい発見でした。緩やかだけれども、確実に老いていくケフィ。そんなケフィに「もう何もしてあげられない」と思っていた私に、「まだやってあげられることがある!」という希望が芽生えたのです。
一年前のメニエール病も今回の特発性心膜液(水)貯留も「特発性」。悪くとらえれば「原因不明」ですが、良い方に考えれば「一時的な疾患」ということです。幸いなことに獣医師からは「食事も、遊びも、旅行も何一つ制限する必要はなく、今まで通り生活してよい」というお墨付きも、もらいました。
私は、できる限りケフィを楽しませることに決めました。時間をつくってはケフィを連れて小旅行。遊歩道を歩いたり、温泉に行ったり、おいしい物を食べたりしました。もちろん、アップダウンが多いコースは控え、少し遊ばせては休み、何かあればすぐに救急病院へと戻れる距離に限定してのお出かけです。
それまではレインコートと暑さ対策のクールベストしか着たことのないケフィでしたが、特発性心膜液(水)貯留の回復後は、フリースのベストや冬用コートも新調し、寒さ対策も入念にしました。
事故が起きたのは、雪山へと出かけた2016年2月のことでした。急にケフィがよろめき、2メートルほどの高さの崖(がけ)から落下したのです。
おろしたての冬用コート姿を写真に納めようと、私が数メートルほどケフィから離れたときでした。カメラを手にした私が振り返った瞬間、ケフィの足がもつれ、体が大きくぐらつきました。私は慌てて手を伸ばしましたが間に合いませんでした。バランスを崩したケフィは、引きずり込まれるように崖下へとゆっくり落ちて行きました。
「きゃぁああああ! ケフィーッ!!」
私の悲鳴に、離れたところにいた家族も走ってきました。のぞくと、崖下にケフィがうずくまっています。駆け寄ると、ケフィはきょとんした顔でじーっとしていました。ケフィの顔や前足、そして目と鼻の周辺には血がべったりと張り付いています。
せっかく大病から回復したところなのに、ここで骨折でもしてしまったら寝たきりになってしまいます。私はケフィの体を尻尾の先から鼻のてっぺんまで入念に触り、痛がる場所がないかチェックしました。幸いなことにけがはなく、落ちた拍子に鼻の頭をすりむき、目にできていたマイボーム腺腫が潰れたために血が出たようでした。
マイボーム腺腫とは、まぶたの縁にぐるっとある分泌腺の出口が詰まってイボのように膨らんだ状態になることです。ケフィは10歳を越えた頃からたびたびマイボーム腺腫ができ、何度も切除手術をしていました。
大病の後、全盛期を思い出すように走り回るケフィを見て
雪山で崖から落ちて……目と鼻の周辺に血がべったり
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