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「二分の一成人式」の気持ち悪さ。親を泣かせたがる演出の数々

「二分の一成人式」なるものがあるのを知っていますか? 近年、小学校に普及しているこの行事に対するある違和感について、二児の母であるライターの堀越英美さんが、自著『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』(河出書房新社)で綴っています。 不道徳お母さん講座※以下、『不道徳お母さん講座』より一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したもの。

大人が考えた感謝のセリフを子供が棒読み

 我が家の長女も噂の「二分の一成人式」に参加することになった。ここ十数年で急速に普及した小学校行事なのでご存知ない方もいるもしれないが、二分の一成人式とは小学校4年生の子供たちが親への感謝を読み上げたり、将来の夢を語ったりする親子参加型の学校行事で、親ウケがいいそうだ。  一方で、被虐待児や死別・離別家庭で育った子供、両親のいない子供への配慮の欠如といった問題も、識者によって指摘されている。「練習がめんどくさい」以外にも、何かと問題を抱えた行事なのだ。
※写真はイメージです

※写真はイメージです(以下、同)

 私が参加した「二分の一成人式」は、一人一人が親への感謝作文を読み上げる代わりに、教師が用意した「親への感謝」シナリオを群読で暗唱するスタイルで進められた。大人が考えた感謝のセリフを我が子が棒読みしているのを聞かされても、さすがに10年以上子育てしているスレッカラシの親たちは感動して涙したりはしない。子供たちも怒られない程度に、控えめな半笑いを浮かべている。  群読が終わると、お返しに親たちがあらかじめ指示された当たり障りのないJ-POPを合唱する。中年が歌うJ-POP、ありがたかいか? 多くの親が口パクでごまかし伴奏ばかりが目立つ中、これ以上に寒々しさに拍車をかけてはいけないと、まじめに歌ってしまう自分が悲しい。 「これはいったい誰のためのイベントなのか?」

「二分の一成人式」はどのように広まったのか

「二分の一成人式」は一体どのように全国に広がったのか。『楽しい体育の授業』2003年7月号に「10年前から提唱してきた『“2分の1”成人式』の取り組みが、いま、ものすこい勢いで全国に広がっている」という岐阜大学の近藤真庸教授の記事がある。ただ、記事の内容を見ると、この頃はまだ親の参加は想定されていなかったようだ。  さらに探していくと、教育雑誌『教室ツーウェイ』2010年10月号の「子どもの成長過程で節目イベント―子ほめ条例、1/2成人式、立志の式」特集に行き当たる。
※Amazonより

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「二分の一成人式を全国に広めるための動きをつくろう。」(谷和樹)で紹介されている二分の一成人式は、「親への感謝の手紙を読み上げる」「お母さんの涙」「感動の盛り上げ」といった、昨今問題視される要素がすべてそろっている。これを全国に広めたがっているのは誰なのか。答えは同特集内の谷氏の記述にあった。 「『二分の一成人式』それは子どもたちの成長の節目として十歳を祝うイベントである。TOSSはこれを推進してきた」  TOSSとは、進学推進協会と関係の深い保守系教員団体で、「江戸しぐさ」「水からの伝言」「EM菌」を教育現場に広めたとして、エセ科学批判界隈にもおなじみの存在である。「発達障害は日本の伝統的子育てで治る」という医学的根拠のないドンデモ脳科学で批判された親学となじみ深いだけあって、先ほどの二分の一成人式の記事にも、「発達障がいの子どもが変化する」という項目がある。黒幕が親学系のTOSSなら、理想的な家族像以外の家庭に配慮できないのも道理である。
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「親への感謝」の手紙の指導がえげつない
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