同特集の別記事「TOSS二分の一成人式10000人プロジェクト! サマーセミナーで10000人が感動し、涙した二分の一成人式のオフィシャルHPも完成」では、「親への感謝」の手紙の指導方法が語られているが、これもなかなかえげつけない。たとえば
「文末を『よ』『ね』にする」と、子どもの作文の文末を無理やり変えてしまうのだ。
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例えば次のように変化させます。
●お母さん、ぼくが病気の時に看病してくれました。うれしかったです。
↓
●お母さん、ぼくが病気の時に看病してくれましたね。うれしかった
よ。
これだけで全く違った手紙になるのです。そして、手紙の最後に次の一文を加えます。
お母さん、大好きだよ。
(『教室ツーウェイ』2010年10月号より抜粋)
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そこを勝手に書き加えたらダメだろう。
どうやらTOSSの教員たちが「親への感謝」をキーに「二分の一成人式」のアイデアを拡充して全国に広めているらしい。TOSS教員が指導案を共有するサイト「TOSSランド」で「2分の1成人式」を検索してみると、台本がいくつも出てくる。
「そうじや せんたく 身の回りのことをするのはたいへんだったでしょう」
「家族のために 毎日 遅くまで働いてくれて ありがとう」
「僕(私)たちを 生んでくれて ありがとう」
などと親への感謝を一人ずつ暗唱させる群読シナリオがメインだが、中には
劇仕立てになっているものもある。
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(子ども)僕たち10年間の間にいろんなことがあったね。
(子ども)20歳になったらみんなどんなふうになっているんだろうね。
(子ども)いつまでも友達でいようね。
(子ども)20歳の成人式でも、こうやってみんなで会おうね。
(全員)さんせ~い! お~!
<一人ずつ順に夢をスピーチしていく。バックミュージックは「夢をあきらめないで」(岡本孝子)>
<「夢をあきらめないで」の2番から、みんなで歌う。>
手をつなぎ、フィナーレ。
幕
(「『ぼくらの1/2成人式』・劇脚本」より抜粋)
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本稿を横から除き見た長女が
「地獄かよ……」とつぶやいた。親子の心が一つになった瞬間である。
TOSSの「2分の1成人式及び立志式のホームページ」も見てみよう。「学級のドラマを演出する“技”」欄では、
「親を泣かせる歌とその指導法」というストレートなタイトルがある。「この選曲1つで、親を泣かせられるかが左右される。とても大事なことだ」とまで書いてある。
「親を泣かせるベスト3」で挙げられているのは、
「未来へ」(Kiroro)
「世界が1つになるまで」(Ya-Ya-yah)
「ビリーヴ」(杉本竜一)
と、J-POP尽くし。
「Kiroroのうた1 Limited Edition」/Amazonより
特にTOSSは、Kiroroの「未来へ」を大プッシュしている。
「全国各地の2分の1成人式でも使われている人気の曲である。歌詞がいいので、
スライドショー鑑賞時にかけると保護者の涙を誘う。歌ってもよし。リコーダーで演奏してもよしのイチオシ曲である」(TOSSの「2分の1成人式及び立志式のホームページ」より)
Kiroro好きはかまわないが、なぜそんなに親を泣かせたいのだろう。まるで結婚式だ。
われわれは教育現場の結婚式場化を食い止めなければならない。ストップ・ザ・Kiroro。もっと哀しい瞬間に涙はとっておきたいの。斎藤由貴世代のお母さんからの伝言である。
<参考/堀越英美『不道徳お母さん講座』 編集/森聖児>