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「昔の女性は生理の血が止められた」というトンデモ仮説を信じる人たち

 個人差があるとはいえ、毎月訪れる生理に悩まされている女性は少なくありません。それは「現代女性が退化し、大切な機能を失ったから」だと言ってのける人たちがいます。
※写真はイメージです

※写真はイメージです(以下、同)

 その人たちはその機能を「おまたぢから(力)」と呼びます。経血の排泄を流れ出てくるままにせず、尿のようにある程度自力で調節するという“経血コントロール”のための機能なのだとか。  現代においては、子宮から排出された経血はナプキンなど生理用品で受け止めるのが、ごく一般的な処理法です。でも、おまたぢからのあった時代には、経血を膣内にとどめておいたり、子宮内膜がはがれる感触を察知して、トイレで一気に出すことが可能だったというのです。 『呪われ女子に、なっていませんか?』 女性の周りにはそんなトンデモ級なスピリチュアル的健康法、美容法がゴロゴロと存在しています。経血コントロールもそのひとつ。『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)では、著者の山田ノジルがその真偽に迫ります。 ※以下、『呪われ女子に、なっていませんか?』より一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したものです。

“昔は自然とできていた”の説得力のなさ

 経血コントロールの実践者たちは口をそろえてこう言います。 「昔の女性はみんな、経血をコントロールできていたんです」  マジか。イヤイヤ、そんな機能がデフォルトだったのなら、なぜ生理用品が古くから存在し、現在ここまで進化してきたのでしょう。また、「月経中の女性は穢(けが)れている」という考えからその期間、女性を隔離する“月経小屋”の習慣が世界各地に存在した意味は? 腑に落ちない点しか、見当たらない!  しかし、彼女らはもっともらしくこう説明します。 ※写真はイメージです「和装時代は下着をつけていなかったので、股をギュッと締め経血が流れ落ちないようにする筋肉の使い方が、自然にできていた」 「今のように便利な生理用品がなかった時代は、粗相をしないように自然と股に力が入っていた」 「現代女性は体を使わない生活で、骨盤底筋の力が衰えている。だから、経血コントロールができなくなっている。若い女性のあいだにも、尿漏れが増えているのがその証拠」  そして…… 「女性が本来持っていた、在るべき力(経血コントロールができる力)を取り戻しましょう!」  ムリでしょ。骨盤底筋の衰えにより、若い女性でも尿漏れに悩まされる人が増えているのは事実ですが、だからといって昔の女性が経血コントロールできていた証拠にはなりません。  世の中には人間ポンプや柔軟芸のように特殊な身体能力を身につけた人は確かに存在しますし、蛇女が鼻から喉へと蛇を通していたように(@昭和の見世物小屋)、ある程度気合で習得できるものもあるでしょう。  ですから、経血コントロールができる女性がいた可能性はもちろんゼロではありません。しかし、昔の女性なら「当然できていた」とまで言われてしまうと、パラレルワールドや異次元の話に聞こえてくるような。  ここで思い出したのが“江戸しぐさ問題”です。

そんなにいいものなら、なぜ現代に伝わらなかったのか?

 江戸しぐさとは、江戸商人たちが作り上げた“人の上に立つ行動哲学”のこと。道ですれ違うときに傘がぶつからないようにする“傘かしげ”などのマナーを現代人も見習おうと提唱され、2007年には「NPO法人江戸しぐさ」まで設立されました。
喜多川歌麿

江戸時代の人々/喜多川歌麿、1800年、メトロポリタン美術館所蔵

 ところが、歴史研究家の原田実氏によってひとつひとつ検証された結果、「江戸しぐさはデマ」と暴かれたのです(参照『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』星海社)。これは、 ●いい話なら何でもねつ造していいのか? ●それを現代批判の道具に使うな ●古い時代の日本を神聖視しすぎ  という問題をはらんでいます。  経血コントロールも、全く同じ問題を抱えています。しかもそれらの問題に加え、より快適に便利にという現代女性の生活を、退化させかねません。生理期間は常に経血が漏れないよう気を配り、こまめにトイレに行って出せ、というのですから。  江戸しぐさと経血コントロールには「そんなにいいものなら、なぜ現代に伝わらなかったのか?」という共通の疑問点もあり、その理由とされているお説がどちらもぶっとんでいます。江戸しぐさは「幕末から明治にかけて江戸っ子狩りが行われ、勝海舟が一部を地方に逃がした」と主張。  経血コントロールのほうはどうでしょう。
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いつから日本は毒親大国に?
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