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話題の漫画『ダルちゃん』が今を生きる女性に迫る、究極の選択

 資生堂のサイト「ウェブ花椿」で1年間にわたり連載された人気ウェブコミック『ダルちゃん』(はるな檸檬・著/小学館)が、全2巻で単行本化され話題を呼んでいる。 ダルちゃん 主人公は24歳、派遣社員の丸山成美(まるやま・なるみ)。毎日ちゃんとメイクしてOLルックで出勤し、正社員の愚痴や給湯室での噂話につきあい、女子社員同士の空疎な会話にも笑顔で相槌を打つ。「ほんとうの自分」を押し殺し、大多数の足並みに自分の歩幅をきっちり合わせる毎日だ。  というか、「ほんとうの自分」が何かなど、彼女は考えたこともない。社会の中で浮かないよう、悪目立ちしないよう、とにかく「ふつうのOL」を演じている。彼女はこれを“擬態”と呼ぶ。「ダルちゃん」とは、擬態を解いてダルッダルに気を抜いているときの彼女のことだ。

よくある女性の成長物語、ではない

 そんなダルちゃんが、「ほんとうの自分」として生きることを決意し、葛藤する姿を描いたのが本作だ。……と聞くと、「はいはい、自分というものがなかった女子が自己変革に目覚めて、自分自身の幸せを模索する成長物語ね」とか「社会で抑圧されている全女性に勇気を! 的な、働く女子を元気にする応援ストーリーね、資生堂だけに」と思われる向きは多いだろう。実際、物語の4分の3は、おおむねそんな展開だ。  おとなしく擬態するダルちゃんに、社会は居場所を用意してくれる。誰にも、何にも衝突しなくていい。生きている意味を詰問されることもない。ある意味でラクなのだ。しかしダルちゃんは、その擬態のせいで男性社員からひどい仕打ちを受ける。
『ダルちゃん』1巻より

『ダルちゃん』1巻より

 傷心のダルちゃんは、先輩女子社員が勧めてくれた詩の世界に触れることで、「ほんとうの気持ち」を表現し、「ほんとうの自分」で生きることの素晴らしさに魅了される。擬態することで得られるラクさを放棄してでも、その「ほんとう」を手に入れたいと願うようになるのだ。  ダルちゃんは詩を書き始め、新しい恋も生まれる。自分の頭で主体的に考え、人生の充足を自力で見つけだし、己の責任で行動しはじめる。その内面は成長に成長を重ね、ダルちゃんは真の「かしこさ」を獲得する。ダルちゃんは変わった。なんと喜ばしく、一点の曇りもない晴れやかな展開だろうか。この勢いでハッピーエンドに突入しても、誰も文句は言わないだろう。  しかし、そうは問屋がおろさない。本書が怪物的なインパクトを放ちだすのは、ここからだ。
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擬態していたほうが幸せだったのか?
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