それだけ訴訟が起きるのは、アメリカが訴訟大国だからでしょうか……?
「根拠のない訴訟ではありません。アメリカには1986年にリハビリテーション法508条が制定され、さらに1990年にはADA(障害を持つアメリカ人法)という差別禁止法が制定されました。これらが基準となり、WEBアクセシビリティは配慮ではなく『前提』となっています。
EUや韓国も近年、同様の制度を作りました。すべての人が等しく情報にアクセスでき、選択できる社会を作ることは、もはや世界の常識なのです。その点で日本は、意識も法律も30年ほど遅れていると言わざるを得ません。東京オリンピック・パラリンピックや大阪万博に向け、高齢者や外国人観光客がそれぞれ4000万人を超す時代です。
にもかかわらず日本は全く情報のユニバーサルデザインに対応できていないのです」
日本ではJIS X 8341-3:2016というWEBアクセシビリティ基準があり、A~AAAまでランクが定められています。このうちAAまでクリアしていればよいとされていて、市町村などのサイトではすでにこの規格に準拠したサイト制作が進められています。ところが民間のサイトにはほとんど実施されていません。
首相官邸ホームページ。公的機関、自治体などのサイトには「Webアクセシビリティ方針」が記載されている
いちいち障害者に対応するサイトを構築することが手間だと思うでしょうか。しかし障害者自身が自分で解決できることが少ないと、彼らを補助するために結局より多くの手が必要になってしまうのです。
ビヨンセのサイトに対する訴訟は、先進国では「当然するべき配慮を欠いた結果」という認識なのです。日本でも、誰もが暮らしやすい配慮を行える社会を作るべく、意識を変えていく必要があると感じます。
【関根千佳さん】
同志社大学大学院総合政策科学研究科ソーシャルイノベーションコース客員教授。
株式会社ユーディット会長兼シニアフェロー。高齢化の進む日本で、誰もが使いやすいICTのユニバーサルデザインを推進している。著書多数
<取材・文/和久井香菜子>