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NHKのゾンビドラマは、ホラーより怖く悲しく笑える

『トクサツガガガ』(NHK総合、金曜夜10時~)とともに、1月クールの攻めてる注目ドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK総合、土曜夜11時30分~。NHKオンデマンドでも配信中)。
『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』NHK公式サイトより

『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』NHK公式サイトより

 何もない田舎町で、みずほ(石橋奈津美)はダンナ(大東俊介)の浮気で別居し、地元の同級生・柚木(土村芳)と美佐江(瀧内公美)と同居しています。そんな折、近所の山中の研究施設が炎上したというニュースが。気づくと、外界とは完全に遮断された田舎町に、ヌルヌルとゾンビが大増殖してきます。

ゾンビに襲われると、隠れた執着がムクムク…

 ゾンビものということから、タイミング的に、去年大ヒットした映画『カメラを止めるな!』の便乗かと思う人もいるはず。もちろんそう思わせるフックになっている部分はあるでしょう。また、「怖いものは苦手だから観ない」という人もいるかもしれません。でも、この作品、決してホラーやスプラッタではなく、「ゾンビ」の出現により、文字通り「人生見つめ直した」人たちの悲喜劇が描かれているのです。  例えば、ヒロイン・みずほは何事にも執着がなく「いつ死んでも良い」と思って生きてきましたが、ゾンビに噛まれそうになった瞬間、不意に「体の中で炭酸がはじける感じ」を味わい、おそらく人生で初めて絶叫します。  また、みずほのダンナの浮気相手は、実は友人で同居人の美佐江でした。美佐江はずっと常識に縛られ、世間体を気にして生きてきたのですが、ゾンビの出現により、浮気相手の妻で友人のみずほに向かって「今日、私、誕生日なの」と言い、夫を譲ってくれるよう頼みます。こんなぶっ壊れた誕生祝いの催促、聞いたことがありませんが、それもまた「体の中で炭酸の泡がはじけた感じ」なのだそうです。  窮地に陥ったときにムクムクと生まれてくる欲望・本能が「炭酸の泡」であるのとは対照的に、ゾンビ化の進行のキーワードは「パイナップル」です。ゾンビに噛まれた後に即ゾンビになるのではなく、自覚もないままにじわじわと「誰かパイナップル食べてるだろ」と感じたり、「すっぱくて甘くて口の中がチクチクする感じ。体全部を使ってパイナップルを食べる感じ」に侵されたりします。いわゆる腐敗臭的なものでしょうか。斬新すぎます。

ゾンビ化した夫のクズ度が全開に

 しかも、面白いのは、ゾンビ化の速度や、ゾンビ化の完成形が人それぞれということ。ゾンビ化直前に怒鳴り散らしていた女性は、ゾンビになっても怒っています。メイク直しをしていた女性も、やっぱりゾンビの姿でメイク直しをしています。でも、基本的にはみんなゆっくりで、攻撃性はさほど強くありません。  みずほの父のバイト先のコンビニ同僚・神田くん(渡辺大知)のように、噛まれてもしばらく自分の意識を保てていたタイプもいます。目の下にひどいクマができ、顔色が真っ青になり、緑色の汁を口から吐き出しながらもなお、「お客さん」という言葉に反応し、仕事をしようとします。実は神田君、引きこもりから立ち直れたのは音楽のおかげだったそうで、音楽で人々を元気にしたいと熱く語るのですが、完全にゾンビ化が完了したときに意識に残っているのは、音楽ではなく「仕事」でした。不憫なほどに真面目な人です。  かと思えば、みずほの夫は不倫相手の正体がバレ、開き直ったかと思えば、噛まれてゾンビ化する寸前に、これまでのデートの思い出を語り始めます。でも、それは全て「現・不倫相手」美佐江との思い出ではありませんでした。ゾンビ化によって、覆い隠してきたクズ度が完全開放されたのでしょう。  ゾンビ化してなお残っている意識は、必ずしも直前というわけではなく、一番幸せなときや、一番心にひっかかっていることなど、それぞれに見えます。それはつまり「執着」ということでしょうか。
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ホラーよりも怖く、悲しく、笑える
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