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NHKのゾンビドラマは、ホラーより怖く悲しく笑える

ゾンビ化した母は通販番組を見続ける

 いちばん悲しいのは、「旅行のパンフをいつも集めているのに、1回も旅行に連れて行ってもらったことがない」「通販番組が大好きで観ているけど、手に入らないから不満とかじゃない」みずほの母。家族がいるこの家が最高と語っていたにもかかわらず、ゾンビ化したときには、ただひたすらに通販番組を観続けていました。そして、これまで登場したどのゾンビよりも攻撃性が強く、夫(みずほの父)を猛烈に襲ってきたのです。ゾンビ化した母の執着は、悲しいことに、家族ではなく「通販番組」でした。  しかし、その夫(みずほの父)もまた、妻にプレゼントするつもりで持っていた花束で、容赦なく何度も何度も妻を叩きます。ゾンビ化が進行していた同僚の神田くんのことは「体調が悪いだけ」とかばい、外に追い出せと周囲に言われても、ビニール傘を広げて動きを拘束するのみで、攻撃はしなかったのに……。  その後、母のスマホから、通販番組で布団セットと男性用の精力剤を大量購入していたことが発覚。と同時に、ゾンビ化する過程で、夫を好きな思いが消えていってしまう恐怖と、身体に満ちてくる幸福感が未送信のメールに見つかります。

ホラーよりも怖く、悲しく、滑稽な人間ドラマ

 ゾンビに襲われたり、ゾンビになったりすることで、表面に浮かび上がってくるのは、意識よりもずっと深い部分です。自分との距離感や関係性よりも、もっとシンプルに、生きものとして「安全か」「信頼できるか」などの根源的な部分が潜在意識で判断されているように見えます。  夢の中に出てきた友人が、仲が良いはずなのに嫌なヤツだったことはありませんか。信頼しているはずの同僚や配偶者が、夢の中では何の役にも立たなかったということは? まるで潜在意識が出てくる夢のように、「ゾンビが来た」町には、丸裸の本能や欲望が溢れています。ある意味、ホラーよりもずっと怖く、悲しく、滑稽(こっけい)で、胸がチクッとしたりクスリとさせられたりするのです。 <文/田幸和歌子> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
田幸和歌子
ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など。Twitter:@takowakatendon
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