スコットランドに帰国したメアリーは一目惚れしたスコットランド貴族、ヘンリー・スチュアートと結婚。彼もスコットランドの王位継承権をもつことから、スチュアート家に権力が集中するのを恐れて周囲の貴族が反対したのにも関わらず、ヘンリーの性格もよく知らないまま、
一時の恋の激情に任せて結婚してしまいます。

『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』より
案の定、ヘンリーはスコットランドの王位を狙っているばかりか、軽薄な愚かな青年だったことが次第に明らかに。メアリーとヘンリーの仲は険悪になっていきますが、この頃、ヘンリーを倒してメアリーと結婚し、スコットランド王に成りあがろうと企む乱暴な貴族が少なからずいました。スコットランドは戦国時代のような有様だったのです。
キャリア(=王位)を守るために結婚を捨てたエリザベスと、キャリアと結婚の両方を手に入れたメアリー。興味深いことに、
このふたりは仕事の進め方も正反対でした。
ふたりの女王が交わした往復書簡から歴史学者ジョン・ガイによる原作『Queen of Scots: THE TRUE LIFE OF MARY STUART』を映画化した本作。作中、彼女たちの文通から、
メアリーが情熱あふれる理想主義的な独裁者タイプだったのに対し、エリザベスは冷静で現実的な政治家タイプだったことが分かります。
ヨーロッパで最高の教育を受けた聡明なふたりは、当時のヨーロッパ貴族の誰よりも自分たちが賢いことを自認しており、“
男たちを差し置いて、私たち女王だけで決断を行うべきだ”と手紙で語り合うシーンも。

『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』より
映画でも描かれますが、エリザベスはたとえ自分の答えがあっても、まず男性議員たちの意見を聞き、自分の決定をあたかも男性たちと一緒に決めたように見せて仕事を進めました。一方、メアリーは自分の決定をそのまま男性貴族たちに伝え、反対されようものなら彼らを服従させて物事を進めました。
16世紀の男性社会において女王の務めを果たすべく、自らの女性性を決して出さずに男に同化してイングランドに黄金期をもたらせたエリザベス。自らの女性性を謳歌し男性を服従させてスコットランドを統治しようとしたメアリー。
メアリーがたどる運命はぜひ映画を観てほしいのですが、
結局エリザベスの血は途絶え、現イギリス女王エリザベスII世はメアリーの13代目にあたっているのだとか。(※4)
16世紀の男女不平等の時代に、ふたりの女王が選んだ真逆ともいえる人生の選択から、性差別が未だ残る現代社会の私たちもきっと学ぶことがあるはずでしょう。
【参考】
※1…ビジュアル選書「イギリス王室1000年史」石井美樹子著
※2…ふくろうの本「図説エリザベス一世」石井美樹子著
※3…ニューカレントインターナショナル「断頭台の女王」才野重雄著
※4…ふくろうの本「図説ヨーロッパの王妃」石井美樹子著
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<文/此花さくや>
此花わか
ジェンダー・社会・文化を取材し、英語と日本語で発信するジャーナリスト。ヒュー・ジャックマンや山崎直子氏など、ハリウッドスターから宇宙飛行士まで様々な方面で活躍する人々のインタビューを手掛ける。X(旧twitter):
@sakuya_kono