慰謝料係争中に、木島さんのもとに典子さんから手紙が届いた。
「便箋で2枚。こう書かれていました。『
私は、あなたに自分のことを理解してもらおうという努力を怠っていました。どうせあなたは私を理解しないだろうと思って、諦めていました』と」
木島さんは典子さんとの関係を、こう総括する。
「典子は、僕みたいなのはタイプじゃなかったんですよ。大学時代に付き合っていたとされる人のことを離婚後に人づてで聞いたんですが、才気走ってて自信満々で、ちょっといっちゃってる規格外の人。A夫のような人です。僕とはまったく違うタイプ。にもかかわらず僕の求めに応じて交際・結婚したのは、僕の押しが普通の人より強く、かつ彼女が普通の人よりずっと状況に押し流されるタイプだったからです」

木島さんが典子さんの気質について再三繰り返している「多少の不満があっても自分から環境を変えようとはしない」が思い起こされる。
「典子が学生時代、
水道の蛇口と洗濯機をホースでつながないまま4年間すごしたって話をしたでしょ? 僕との結婚生活は、まさにあれだったんですよ。ベストな状態ではないけど、当座困るわけじゃないから、ほっといた。それだけです」
木島さんの言葉から、静かなる怒りが伝わってくる。
「典子に言い寄ってくる男が2人いて、彼女としてはどちらも特に断る理由がないから、求めに応じて相手に尽くした。そういう意味では、僕のプロポーズを受けたのも、彼らからの不倫の持ちかけに応じたのも、彼女の中では同じことなんですよ。相手に罪悪感を抱かせることなく期待に精いっぱい応えようとした。ただ、それだけなんです」
木島さんは2年前に再婚したというので、最後に不躾な質問をしてみた。今の奥さんが典子さんと一番違う点はどこですか? 木島さんは即答した。
「僕のことを好きだってところ、ですね」
※本連載が2019年11月に
角川新書『ぼくたちの離婚』として書籍化!書籍にはウェブ版にないエピソードのほか、メンヘラ妻に苦しめれた男性2人の“地獄対談”も収録されています。男性13人の離婚のカタチから、2010年代の結婚が見えてくる――。
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
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